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強く 抱きしめて 14
「貴方、お仕事は?」
唐突(とうとつ)な質問に剛さんは頭を上げると、誇らしげに微笑んだ。
「警察官です。今は研修で交番に勤務しています」
「あらやだ、警察の人なの。どうりで礼儀正しいと思ったわ」
「警察学校でしごかれましたから」
「ふふ・・・そうね。貴方なら、千都星を任せられるわ。傍にいてちゃんと育ててあげられなかったから、色んなこと我慢させちゃったから、淋しがり屋で抱え込んじゃう子なの」
「・・・・そうですね」
お母さんがボクのことを、そんな風に思ってくれていたなんて、知らなかった。
お母さんがつい・・・っと、ボクを見つめる。その瞳が、優しかった。そんな瞳で見てもらえるのが。
・・・嬉しかった・・・。
「私にもあの人にも、何も言わない子に育てちゃったから・・・貴方になら、きっと何でも話せるんだと思うわ」
「ええ、毎日色々なこと、いっぱい話してくれます」
「良かった・・・傍にいて、支えて欲しいの・・・母親のくせに何もしてこなかったくせに、こんなこと頼むのは虫が良すぎるわね」
自嘲気味(じちょうぎみ)に笑ったお母さんは、それでも綺麗で、艶(あで)やかで。
言いたいことなんか一杯あるのに、怒鳴って罵(ののし)ってやりたいってずっと思ってたのに。
そんなこと言われたら、もう何も言えない・・・。
剛さんは満面の笑顔で、お母さんを真っ直ぐ見つめる。
「大丈夫です。ずっと、ずっと、オレが支えます。傍にいます。だから、安心して下さい」
お母さんはその笑顔を見ると、本当に嬉しそうに、花が開くようにふわっと笑うと、無言で頷いた。
そして剛さんの隣に立つボクに視線を向ける。
お母さんは、ボクが小さい頃のように、優しい穏やかな声で言った。
「いい人見つけたわね。ちゃんと・・・幸せになるのよ」
「あ・・・はい・・・」
ボクは慌ててしまい、どう答えたらいいのかわからず、笑っていいのか、どうしたらいいのかわからず、それだけ言って俯(うつむ)いてしまった。
お母さんは満足そうに頷くと、不意にソファから立ち上がった。
それを合図に、ボクと剛さんは別れの挨拶をして、鑑定の詳細はまた連絡することを約束して、お母さんのマンションを後にした。
意外だったのは、お母さんのほうから今後の連絡はマネージャーを通さないで、直接連絡するように言ってくれたこと。
剛さんとお母さんは連絡先を交換していた。お母さんが剛さんを気に入ってくれたみたいで、嬉しかった。
ボク達のことを認めてくれて、嬉しかった。
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