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強く 抱きしめて 15

* 都心のオフィス街にある高層ビル。その最上階とすぐ下のフロアに、ボクのお父さんの会社が入っている。 今まで一回も来たことがなかったこの場所に、ボクは剛さんと二人で来ていた。 無機質な高層ビルが立ち並んで、行き交う人はみな会社員らしき、スーツ姿だったり、きちんとした楚々(そそ)とした服装で、忙しそうに通りを歩いて、ビルに吸い込まれていた。 チェーン店のコーヒーショップやコンビニが点在している中を、ボクと剛さんは慣れない街を歩いてやっと辿り着いた。 お父さんの秘書に連絡をして、会って話しができる約束を取り付けるのに、1週間。そして指定された日にちは更に1週間後、ほんの30分だけだった。 自宅ではなく会社に来るよう言われたことでも、お父さんが多忙(たぼう)なことと、ボクとゆっくり話しをするつもりがないことがわかる。 剛さんもボクもスーツを着ており、受付でお父さんの秘書に連絡をしてもらい、無言で通された会議室の椅子に座っていた。 適当な服装で行こうとしていたボクに、剛さんがスーツを着るように言ってくれたので、大学の入学式で着ただけの1着しかない紺のスーツを着て、ネクタイを締めていた。 剛さんの言うとおりスーツにして良かった・・・会社にジーパンで来るような人は逆に変な目で見られる。スーツだと取引先の人くらいにしか思われないので、誰にも奇異(きい)の目を向けられることはなかった。 ボクはお父さんがいつ来るのかと、そわそわしてしまい全く落ち着きがないのに対して、剛さんは背筋を伸ばして椅子に座って、落ち着いた様子だった。 何となく会話をするのが憚(はばか)られる空気の、机と椅子が並んでいるだけの、白い壁と床の四角い無機質な会議室だったのもあって、ボクは更に落ち着かないでいた。 膝に乗せた手が少し震える。 こういうの苦手なボクは、緊張のあまり震えてきてしまった。 ボクのその手を、不意に、剛さんが大きな手で握り締めてくれた。 暖かい体温にびっくりして、隣に座る剛さんを見上げると、剛さんは笑いながら、 「千都星、緊張しすぎ」 そう言って更に手をぎゅっと握ってくれた。 「あ・・・ごめんなさい・・・」 「大丈夫だよ。一緒にいるから」 「うん・・・」 剛さんの穏やかな笑顔を見ていたら、少しずつ緊張が解(ほぐ)れてきた。 良かった・・・剛さんが一緒に居てくれて。 今日もわざわざ休みを取ってきてくれた。本当は甘えちゃダメだとわかっているけれど。 お父さんと会うのに、一人でなんて、とてもじゃないけど、無理。 ボクは大きく息を吸って、深く吐き出した。 その時。

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