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妄執 1-6

 仁科が戻ってくるまでに、少しでも全身を休めたかった。  仁科の目的がわからない。先生と呼ぶように強要し、逆らえば容赦なく暴力を振るう。  実際に受けたのは一度だけだが、孝司をおとなしくさせるには充分だった。 「……痛い」  張りつめていた気が抜けたせいか、頭の痛みがぶり返した。孝司は椅子に縛りつけられたまま、じっと痛みを耐えた。  数分後、切れ味の良さそうな大振りの鋏を手に、仁科が戻ってきた。 「本当に切るんですか?」 「当たり前だろう。さあ、長瀬くん。危ないから不用意に動かないように」  わざと大きな音を立てて孝司の襟足を切ると、仁科はサクサクと鋏を進める。はらりと切れた髪が孝司の周りに落ちる。短くするのは約一年ぶりだった。 「――終わったよ。実によく似合うね」  明るくなった視界とは裏腹に、孝司は目の前が暗くなるような絶望感を覚えた。

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