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妄執 3-6
仁科は孝司の窄まりに触れ、指先を使って広げようとする。
「嫌だ! 俺に触れるな!」
孝司は足を振り上げ、仁科の肩口を思いきり蹴飛ばした。
仁科が体勢を崩した隙をつき、孝司は片山に向かって叫んだ。
「片山さん! 助け――っ!」
左頬に鈍い痛みを感じる。脳が揺さぶられるようだ。しばらくして、仁科に殴られたのだと理解した。
「孝司くん!」
「動くな、片山っ!」
「ぐっ……ぅ」
仁科の骨ばった指が孝司の首を絞める。駆け寄ろうとした片山は動きを止めた。
「一歩でも私たちに近づいたら……わかりますよね?」
「そんなことをしたら彼が死んでしまう!」
「あれ? 片山さんに話しましたよね。私の目的」
「……っ」
仁科がさらに首を圧迫する。孝司はまったく声を出せない。
そればかりか行き場を失った血液が頭の中で暴れ出し、今にも弾けてしまいそうに苦しかった。
片山がおとなしくなると、仁科は孝司を締め上げていた手を弛めた。
「わかっていただけたようですね。確かに私はあなたに残るように言いましたが、残った以上は私に口出ししないでもらいたい。ああ、でも、やはり――」
仁科が肩越しに振り返り、言った。
「――それを処理するためならば出て行っても構いませんよ。そのままじゃあつらいでしょう」
仁科が片山に向かって何か話しているようだが、孝司には聞き取れなかった。
わかったのは片山が急ぎ足で部屋から出て行き、仁科とふたりきりになってしまったことだけだった。
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