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妄執 4-2

 それから時は経ち、孝司は私立中学校の入学試験を受けることになった。もちろん孝司の意思はなく、父がなかば強引に決めたことだ。  しかし母と離された日から孝司の成績は下がっていた。父と兄からすぐに取り戻せると言われ続けたことが逆にストレスになっていた。  案の定、結果は不合格で、孝司は皆と同じ地元の市立中学校へ進学した。父は何も言わなかった。同じ時期に兄が父の母校でもある国立大学に合格したからだ。  大学進学を機に兄は独立し、大学近くのアパートでひとり暮らしを始めた。兄が独立したことにより、家の中は孝司と父だけになった。  父とふたりきりの生活は孝司にとって窮屈な暮らしであった。父は朝早く出勤し、夜遅くに帰宅するため、家事のほとんどを孝司がこなした。おかげで中学、高校ともに帰宅部であり、まともに勉強する時間すらなかった。  年に数回兄が帰ってきたが、特に会話はなかった。  やがて孝司の受験シーズンになった。高校を決めるときもそうだったが、父は孝司に対して何も口出ししなかった。  中学受験の失敗以降、父は孝司に落ちこぼれのレッテルを貼り、過度に期待を寄せることはなかった。  大学は家から近い三流の私立大学に決まった。孝司は兄と同じようにひとりで暮らしたいと父に申し出たが、近くなら家から通えばいいと一蹴された。どうしても家を出たかった孝司は、ありとあらゆる言い訳を連ねて父を説得した。  そんな日々が数日続き、さすがに鬱陶しくなったのだろう。最終的に父が折れ、孝司は息苦しい家から出ることができた。

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