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妄執 6-2

「孝司くんっ!」  片山はバスルームに飛びこみ、その現状に思わず声を上げた。  孝司が鏡に向かって何度も拳を振り上げている。彼の周囲には割れた破片が散らばっていた。孝司の右手からは血が滴っている。 「よせっ!」  片山は孝司を後ろから羽交い締めにして、バスルームから連れ出そうとした。  孝司は言葉にならない叫びを上げ続け、がむしゃらに手足を動かした。しかし体力が落ちた身体では抵抗らしい抵抗もできず、そのままバスルームから連れ出された。 「何てことをしたんだ!」  片山が怒る。傷を確かめようと持ち上げた腕を孝司は振り払った。 「うるせぇ! 放っておけよ!」 「孝司くん!」 「俺なんかどうでもいいだろ! あいつが欲しいのは俺じゃない!」 「……気づいてしまったのか」  孝司の両目から涙が溢れ出す。 「何で話してくれなかったんだよ……」  片山は何も話せない。代わりに正面から孝司を抱き締めた。孝司は片山の胸で泣き続けた。手の痛みよりも心が痛かった。 「傷の具合を見せてくれ」  片山が身体を離して言う。孝司は素直に手を出した。

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