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妄執 6-3
「長瀬から離れろ、片山」
片山は孝司の手を取ったまま、突然の乱入者に目を向ける。孝司はその場で固まったままだ。
「さっさと離れろ!」
仁科が語気を荒げる。片山は孝司を庇うように背後にやり、仁科と対峙した。
「孝司くんはお前の目的に気づいた。これ以上は無意味だ。もう終わりにしよう」
「無意味?」
仁科は口元を歪め、ふたりとの距離を詰める。
「お前たちにとっては無意味でも、私にとっては大いに意味がある。それに彼は孝司じゃない。彼は啓い――」
「それ以上言うなっ!」
孝司が片山の背後から抜け出し、仁科に詰め寄る。
「孝司くん!」
片山は止めようとしたが、彼の勢いに気後れしてしまった。
「俺は孝司だ。あいつと一緒にするな!」
仁科の胸倉を掴み、睨みつける。
「何を言ってる?」
仁科は暗く笑い、孝司の血にまみれた右手を思い切り掴んだ。
「っう……離せっ!」
仁科は孝司を見つめ、非情な宣告をした。
「君は啓一だ。それ以外の何者でもない」
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