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純愛 2-1

 片山亮介は後悔していた。  仁科の目的に孝司が気づいてしまったあの日から、彼はおかしくなっていた。  自らを監禁して強姦した相手をサトシと名前で呼び、ただひたすらに彼を求める姿は、もう以前のような孝司ではない。  孝司が壊した鏡は今もそのままにしてある。きっと鏡と一緒に孝司自身も壊れてしまったのだろう。  あの日、仁科に連れ出された片山は、行為が終わるのをずっと待っていた。  やがて仁科が部屋から出たので、いつものように後片付けをしようとしたら、仁科から珍しく放っておけと言われた。それから仁科にとって孝司はただのレプリカなのだと聞かされた。  片山が知らないわずかな時間に起こった何かが、仁科の妄執をすっかり取り払ってしまったようだ。  仁科の孝司に対する態度は傍から見ると明らかに変化していた。  だが当の本人たちはその変化に気づかずに、奇妙な疑似恋愛を続けている。  孝司に対しての後悔はもちろん、元上司として仁科にしてやれたことは、たくさんあったのではないのか。  週末までがこれまでよりも長く感じる。仁科が抜けた穴は今でも塞がらず、社員一同これまで以上に忙しい日々が続いていた。  片山はかつての部下が座っていた席に目をやる。仁科のデスクには誰かがファイルや資料を置き始めたことにより、一時的な物置場と化している。人付き合いは不得手だったが、誰よりも正確に仕事ができる仁科は貴重な戦力だった。  仁科を妄執者へと走らせてしまったきっかけは、自分にあるのかもしれない。  片山は当時を振り返り、心の中でふたりに詫びた。

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