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純愛 5-1

 孝司の監禁部屋から出てきた仁科は、今日も苛立っていた。  仕事を早めに切り上げた片山が様子を見ようと部屋に近づいたところ、偶然仁科と出くわしたのだ。  ふたりは今、簡易キッチンで淹れたコーヒーを飲んでいる。  片山はさりげなく仁科の様子を伺った。最近の仁科はぼーっと虚空を見つめることが多い。孝司の部屋に行く時だけに羽織る白衣も、今は無造作に椅子に掛けられている。  片山は仁科がいったい何を考えているのか、ますますわからなくなっていた。 「……啓一に会いたい」  片山はコーヒーを飲んでいた手を止めた。一度カップをテーブルに戻し、仁科へ問いかける。 「まさか啓一を連れて来いって言うんじゃないだろうな」  それは片山が一番危惧していることでもあった。  そんな事態になったら、今まで代用品だった孝司はどうなってしまうのか。  仁科の話では、孝司のアパートはすでに解約してあると聞いた。帰る場所はなくなってしまったし、何より、今の孝司は仁科から離れることはできないだろう。  片山があれこれと考えていると、向かいに座った仁科が口元だけで笑った。 「そんなことしませんよ。それに私は啓一とは会えない。向こうも会いたくないでしょうし」  仁科は立ち上がり、白衣を傍らに抱え、自らの寝室へ行ってしまった。 「仁科と啓一が会ったら、孝司は捨てられるのか……?」  もしそのような事態になれば、孝司はひとりぼっちになってしまう。だが――。 「……そうだ、これならば孝司を救い出せる」  片山はこの状況を打破する解決策を思いついた。  早速、作戦の鍵となる啓一とコンタクトを取る手段を探すために、片山は残っていたコーヒーを一気に飲み干した。

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