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純愛 8-2

「サトシ……!」  仁科はリモコンを白衣のポケットにしまい、監禁部屋から立ち去ろうとしていた。後処理はすべて片山がやってくれるから、孝司を散々弄んだ後も、何もせずに出て行くことがほとんどなのだ。 「……サトシ」  孝司はふらつく身体を起こし、ベッドの上で膝立ちになった。お決まりのポーズである。 「お願い……っ、ちょうだい……」  孝司は仁科の背中に懇願した。  仁科からの回答は、直接身体にもたらされた。 「ひぁっ、あ……や、やだっ!」  これまで経験したことのない激しい振動でも、孝司は言葉とは裏腹に甘美な刺激を味わった。 「――――何が気に入らないんだ」  口調は怒っていたが、仁科が引き返してくれただけで、孝司は嬉しかった。 「君はどうしたいんだ、長瀬くん。どうしてこんなにも、私を苛立たせる?」 「わかっ、ん、ああ……あ、わかんないよ……助けて、助けてよ、サトシ……っ」 「なぜ君は啓一じゃない。なぜ啓一は……私を選んでくれなかったんだ?」 「ひ、あっ……もう、助け……っ」 「……最初からやり直せればいいのに」 「ぅ……あっ、サトシ……」 「黙れっ!」  突然頬を殴られ、衝撃で孝司はベッドに倒れこんだ。口の中が鉄臭い。切れてしまったようだ。  じわじわと痛みがやってくる。  仁科から暴力を受けるのは久しぶりで、孝司は自分の身に何が起こったのかを理解するのでさえ、時間がかかった。  仁科を見ると怒りに満ちた憎悪の瞳で孝司を見下ろしていた。 「君は啓一とは違う」 「…………あ、ぁ」  ――俺はお前とは違う。  兄の言葉がよみがえる。  今まで孝司を縛ってきた忌まわしき言葉だ。 「やめて…………そんなこと言わないで、サトシ……」  孝司の精神は兄と比較され続けていた頃に戻っていた。 「君さえ現れなければ私は……っ!」  仁科が再び孝司を痛めつけようと手を振り上げる。攻撃に備えて孝司は身をすくめた。  そのとき、仁科の携帯が鳴った。誰かからの着信のようだ。仁科は無視し、落ち着きを取り戻そうとしたものの、その後も電話は鳴り続けた。  しびれを切らした仁科がそっと携帯を取り出しディスプレイに表示される名前を見た。一瞬にして仁科の表情が変わる。 「…………啓一?」 「え……」  仁科は身をひるがえし、電話に出るべく部屋から出ようとする。 「サトシ待って! 俺をひとりにしないで!」  孝司はただならぬ不安を覚え大声を上げたが、仁科が振り返ることはなかった。

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