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純愛 10-1

 啓一は仁科と駅で待ち合わせの約束をした。  仁科と最後に会ったのは、もう五年も前の話だ。彼の連絡先を残しておいたのは、特別な理由があったわけじゃない。ただ、何となく。しかしこれもまた偶然のなせる業だったのかもしれない。  電話越しの仁科は幾分緊張しているかのように聞こえた。だがその緊張というものは疑いをかけられているというよりも、純粋に旧友との再会を喜ぶようにも感じられた。  約束の時間の十分前に着くと、仁科らしきスーツを着て眼鏡をかけた人物が、時計台を背に立っていた。学生時代よりもどこかやつれているが、すさんだ外見を整えれば良い男だという点は変わっていなかった。 「……仁科か?」  何せ五年だ。確信はあったが、啓一は恐る恐る声をかけた。 「ああ、久しぶりだな……長瀬」 「卒業以来か? 相変わらず早い到着で」 「君だってそうだろう?」  啓一は必ず集合時間の十分前には到着するように心がけているが、仁科は啓一よりも早く着いていた。どことなくソワソワと落ち着きがなく、唐突にふふっと笑い出した仁科に、啓一は眉をひそめた。 「何かおかしいか?」 「……いや、懐かしいなって思っただけだよ。それにしても、変わらないな。長瀬は」  自分より少し背の低い仁科から見上げられ、啓一は不快感を表に出さないように努めた。

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