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純愛 12-1

 啓一は駅の近くにある行きつけの店に仁科を案内した。  五分ほど歩いた先にある、こぢんまりとした居酒屋だ。店内は落ち着いた雰囲気で、手前にカウンター、奥に個室がある。  事前に予約していたから、店員に案内され最奥の個室へ通される。そのまま一通り注文し、料理が来るのを待つ間、啓一はもちろん仁科も何ひとつ話さなかった。  掘りごたつ式のテーブルの向かいに座る仁科が何を考えているのか啓一には読み取れない。  しかし、徐々に顔色が悪くなっているところを見ると、こちらの意図に気づき始めたようだ。  あらかた料理が揃ったところで、さっそく啓一から切り出した。 「俺には時間がない。単刀直入に聞く。孝司はどこだ?」 「……彼は元気だよ」  罪を暴かれたというのに悠然と構える仁科を見て、啓一は表情を歪めた。 「否定しないのか?」 「君は確信しているのだろう? なら否定する意味はないさ。あえて聞くなら、君が私まで辿り着いた経緯を知りたいね」 「それを言えば、孝司を返してくれるのか?」 「返すも何も、彼はそれを望んでいないよ」 「……孝司はそんな子じゃない」 「君がいくら否定しても、これが真実だ。彼は君のことを心底嫌っているよ」 「お前に何がわかる……っ」  啓一は怒りを押し殺すように続けた。 「孝司は俺が守ってきたんだ。たとえ嫌われていたとしても、あの子が帰るべき場所はひとつだ。少なくとも、仁科。お前の所じゃない」 「彼の方から逃げたのかもしれないよ」 「そんなことはありえない」 「どうして、そう言い切れる?」 「……大切な弟だからだ」 「弟……ねえ」 「孝司の居場所を教えろ」 「ひとつ聞くけど。長瀬、君は彼のことを本当に弟だと思っているのかい?」 「何が言いたい」 「別に他意はないよ」  まどろっこしい仁科との会話に、いい加減にしろと叫びたくなる。爪がめりこむほど拳を強く握り、仁科を睨みつけると、彼の表情が変わった。 「……わかった。彼の居場所を教えよう。その代わり、君が得た情報を教えてくれないか?」 「何の為に」 「君の情報網が気になっただけだよ」 「この話が終わったら、必ず孝司を返せ。もし違えるようなことがあれば、お前を警察に突き出すからな」 「…………わかったよ、長瀬。君の弟を解放しよう」

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