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純愛 14-2

 タクシーを降りた仁科はすぐさま中へ入った。料金を支払い、啓一も後を追う。  室内に足を踏み入れると、玄関から入ってすぐに二階へと続く階段が見えた。仁科は二階へ上がったようだ。啓一も仁科に続く。古い階段はぎしぎしと音を立てた。  二階に上がった先の部屋の前に、仁科が立ち尽くしている。 「どけっ!」  孝司が中にいると悟った啓一は、仁科を押しのけて部屋に踏みこんだ。  そこは異様な空間だった。  すべての窓が板で閉じられている。わずかな隙間から、うっすらと月明かりが差しこむ。  薄暗い室内に置かれた机と椅子。これらは使われた形跡はなく、ただそこに存在しているだけだ。  それから啓一の目は、壁際に設えられたパイプベッドを捉えた。 「何だ……これは……?」  ベッドの足元の柵には鎖が取り付けられていて、その先は金属の枷に繋がっていた。  啓一は枷を手に取り、そして驚愕した。かすかに鉄臭い、血のような臭いがしたからである。ベッドに目を向けると、シーツが乱れている。ついさっきまで、ここに人がいた証拠だ。  啓一は部屋の入口で立ち尽くす仁科に詰め寄り、胸倉を掴み上げた。 「これはどういうことだ! 孝司はどこにいる……答えろっ!」  啓一は何も言わない仁科に苛立ち、掴んだ手はそのままに彼を背後の壁に叩きつけた。 「……な、い」  震える声で仁科が呟く。啓一が胸倉を掴む手を放すと、仁科はずるりとその場に座りこんだ。  明らかに動揺した仁科の姿に、啓一は咎める口調を改め、優しく語りかけるように努めた。 「……いったい何があったんだ?」 「長瀬がいない」 「何だ? 俺ならここに……」  啓一が言うと、仁科が顔を上げた。その瞳は不安げに揺れ、焦点が定まっていなかった。 「……長瀬がいないんだ、啓一」  啓一はその言葉で、仁科が嘘を吐いていないと悟った。  そして唐突に最悪の現実に気づいてしまった。  ようやく居場所を掴んだ弟は、その痕跡だけを残し、忽然と姿を消してしまったのである。

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