啓一はショックのあまり全身を硬直させた。啓一の反応を楽しむように、仁科は再び唇を合わせた。今度は舌まで入れてきて、歯列に這わせるように啓一の口腔内を蹂躙した。 　自分が何をされているのか理解した啓一は仁科の舌に思い切り噛みついた。 「……痛っ」 「お前は、いったい……」 　啓一が問いかけても、仁科は薄暗く嗤うだけで、その態度が仁科をより不気味な存在にさせた。ややあって、仁科が口を開いた。 「理解できるか、啓一。私は君に欲情する。できることならば君を私のものにしたい。しかし、君は決して受け入れないだろう？　だから君の弟を使った」 「……」 「いや、使ったというのは語弊があるな。私が彼と出会ったのは本当に偶然だったからね。それでも彼の姿は大学時代の君を彷彿とさせたのだ」 　啓一は口を挟む余地がなかった。嫌な予感が脳内をよぎった。 「彼をここに閉じこめ、君そっくりに姿を変えさせ、私に従うように教育した。思いの外、彼は脆くて簡単に壊れてしまったがね。私の予想を遥かに上回るその変貌ぶりには、正直参っているよ」 「……孝司」 「それから彼に君の姿を重ねて、彼を犯したのだ」 「……！」 　――犯した、だと。 　嫌な予感は的中した。それも最悪な形で。 「お前は……孝司に何をした……？」 「聞こえなかったのか。私は君の弟を凌辱した。今、私たちが寝ているこの場所で彼を嬲り、弄んだ。まあ、最近では彼の方から腰を振って私をねだっていたがね」 「孝司はそんなことしない！」 　啓一は怒りをこめた拳を振り下ろそうと腕を上げるが、仁科は言葉でそれを制した。 「その手で私を殴り殺すか？　それもいいだろう。だが彼の心は戻らない」 「黙れ！」 「彼は私に対して醜い妄執を抱いている。そして君を心の底から憎んでいる。これが現実だ」 　仁科の眼はもう淀んでいなかった。そこにあったのは学生時代に見た、将来の夢を語る真摯な瞳だった。かつて憧れていた真っ直ぐなまでの眼が、今は啓一を捉えて離さない。 　彼が語る言葉がすべて真実だと、啓一は理解した。 「仁科……」 　間をおいて口にした言葉は、いつもよりもか細いものだった。 「それでも俺は孝司に会いたい……頼むから、居場所を教えてくれ」 　啓一は仁科の上から身を起こすとベッドから降り、冷たいコンクリートの床に跪き、仁科に向かって何度も頭を下げた。 「やめてくれ、啓一」 　仁科が顔を上げさせようとするが、啓一は頑として聞き入れる気はなかった。膠着状態が続き、やがて仁科が先に折れた。 「……心当たりはある」 「本当か」 「だがあくまでも心当たりだ。彼の居場所までは私にもわからない。だから……もう私に弱気な姿を見せないでくれ。君らしくない」 　仁科は啓一の顔を見ずにベッドに腰かけると、傍らに伸びる足枷を手に取って話し始める。 　啓一は顔を上げ、仁科の話に耳を傾けた。