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狂想 5-1

「意外と片づいているんだな」  後に続いて部屋に足を踏み入れた仁科の率直な感想に、啓一は苦笑した。 「彼女が几帳面なんだ。俺は片づけ下手だから、彼女が来たときに、それとなく綺麗になっている」 「惚気のつもりか? この私の前で」 「だからさっきも言っただろう? お前の俺に対する想いはそういう意味じゃない」 「わかっているさ、啓一。ちょっとからかっただけだ」 「まあ、てきとうに座ってくれ」  啓一はリビングの中央に配置されたL字型のソファーを指し、仁科を座らせた。仁科は啓一の指示に従ったが、どことなく落ち着かないらしい。仁科は膝の上でせわしなく動く自分の指を見つめていた。 「軽く飲むか?」  冷蔵庫から缶ビールを二本取り出し、啓一は仁科に尋ねたが、仁科は黙って首を左右に振った。 「そうか。ならコーヒーでもいいか? すぐに湯沸かすから」 「気を遣わなくてもいいよ、啓一」 「客をもてなすのは主人の務めだろう?」  普段の自分からは想像できない軽口をたたいてしまう。啓一は無意識のうちに仁科に対して虚勢を張っていた。  本当は仁科とコーヒーを飲むくらいならば、抜け駆けして孝司を探しに行きたい。仁科ですら想定外だった片山による孝司の拉致。動揺しないほうがおかしい。だがそれは仁科も同じだろう。 「さて仁科、俺の質問に答えてもらおうか」  啓一はマグカップをふたつ手にし、ひとりがけ用のソファーに腰を下ろす。L字型のソファーの端に座る仁科と斜向かいになる場所だ。湯気の立つコーヒーを仁科に手渡すと、仁科は小さくありがとうと言った。 「お前はさっき孝司の居場所に心当たりがあると言った。そのためには俺の協力が必要だとも。具体的に俺は何をすればいいんだ?」 「……」 「どうなんだ仁科。お前は本当に孝司の居場所を知っているのか? まさかデマじゃないだろうな」  どうやら仁科は話す気配がないらしい。静まっていたはずの激情がめらめらと啓一の中で再熱する。啓一はソファーから立ち上がり仁科を恫喝した。 「いいか、先に言っておく。俺はお前が孝司の居場所を知っていると言ったから、こうしてお前を連れて来たんだ。俺に嘘を吐くのなら、今すぐこの部屋から出ていけ! 孝司は俺が見つけ出す。お前の手など必要ない!」 「……啓一、ひとつ訂正しろ。私は孝司くんの居場所に心当たりがあると言ったんだ。居場所を知っているわけではない」 「同じことだろう。それとも、その場所に行けない深い理由でもあるのか?」 「そういうことだ」  仁科はマグカップを口につけ、コーヒーをすする。  その余裕ぶった態度に苛立ちが募り、啓一はまだ中身が入ったままのマグカップを感情に任せてテーブルへ叩きつけた。

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