「いい加減にしろ！　何だその態度は。俺を馬鹿にしているのか？」 「馬鹿になどしていない。少し落ち着いて、私の話を聞いたらどうだ？」 「お前はいつもそうだ。要領を得ない話し方をする。回りくどいんだよ。結論から話せ。早く孝司の居場所を教えろ！」 「落ち着けよ、啓一」 「これが落ち着いていられるか！　孝司はどこだ！　どこにいる！　答えろ仁科っ！」 「仮に孝司くんの居場所を突き止めたとして、君は彼をどうするつもりだ？」 「は？」 「啓一、君が孝司くんにどう接していたのかは、私も知っているつもりだ。彼を無事に保護できたとして、君は彼に何をしてやれる？　彼が君の助けを望んでいないのは目に見えているだろう？」 「……何が言いたい」 「孝司くんは大人だ。身内だからといって、君がそこまで関わる必要はないんじゃないか？　あとのことは警察に任せて、君はさっさと日常に戻ったほうがいい。啓一、大事な人がいるんだろう？　彼女のためにも、君は孝司くんのことは忘れて――」 　これ以上聞いていられなかった。 「孝司を忘れろ、だと？」 　啓一は仁科の胸倉を掴み、ソファーから立たせ、そのままフローリングの床に叩きつけた。それから啓一は仁科の上に馬乗りになり、自分より細い身体を体格差で抑えつける。 　これではまるで監禁場所での一幕と同じではないか。自分の馬鹿らしい行為に悔しさが募る。 「君は何も変わらないな」 「……っ」 「私を殴りつけて満足か？　君の私に対する怒りももっともだが、再会してからの君はいささか常軌を逸している。孝司を救い出す？　今の君にできると思っているのかい？　私に八つ当たりをする前に、君は弟との関係にはっきりと答えを出すべきだ。君の中ですべてに整理がついたら、そのときは彼の居場所の手がかりを教えてやる。さあ、その手を離せ。君にはまずやるべきことが――」 　衝動的に、啓一は仁科に口づけた。 「仁科……お前を抱いてやるよ」 　かつて親友だった男に対して言う言葉じゃない。 　この男には暴力よりも色仕掛けが効くのではないかと啓一は思った。