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狂想 5-3

「……君は自分が何を言っているのかわかっているのか?」 「お前の望みを口にしただけだ」 「私をその気にさせれば、孝司くんの居場所を教えると思ったのか? 君への想いの正体が親愛のようなものだと、君が私にそう言ったことを忘れたのか? 私を侮辱するなよ、啓一。見損なったぞ」 「……お前を孝司だと思えば、キスくらい何てことはなかった」  裡に秘めていた想いが吐き出される。 「お前を孝司だと思えば、簡単に抱けると思っていた。でもそれじゃあ、お前のやったことと何ら変わりはない。そういうことだろう?」 「……啓一、孝司くんは君の弟だ」 「本当は血など繋がっていない、と言ったらどうする?」 「……」 「まあ、冗談だが。そうだな。孝司は俺の大切な弟だ。兄として弟を救いたいという気持ちはおかしくはないだろう?」 「啓一……」 「だから仁科、お前も自分に正直になることだな」 「何の話だ?」  色恋に疎い仁科がおかしくて、啓一は笑った。仁科を解放した後も、笑いは治まらなかった。 「笑い過ぎだぞ、啓一」 「すまない」 「……片山の所有していた物件ファイルだ」 「物件?」 「片山が所有していたファイルには、なかなか売れない物件をまとめたものがある。そのファイルの存在は社員も知っているはずだが、気にかけていた者は少ないと思う。もしかしたら、その中のどこかの物件に監禁されているのではないかと私は考えた」 「その確証はあるのか?」 「いや。しかし、何もしないよりかはマシだろう。もしくは片山の自宅という可能性もあるが、この騒動を機に、引っ越しているかもしれない。どちらにせよ、明日会社に行って確認したい。本来ならば、早急に警察へ届けるべきだが――」 「それは止めてくれ」 「君たちの父親のせいか?」  長瀬兄弟の父親が厳格な人物であることは、かつて仁科に話した記憶がある。  現に、仁科が孝司をひと月近く監禁できていたのも、父親が届け出なかったためだ。 「それもあるが――警察に届けたら、仁科、お前もただではすまないだろう?」 「間違いなく実刑をくらうだろうな。もしかして、君は私を心配しているのか?」 「親友……いや知人がムショ暮らしだなんて、情けなくてたまらないからな」 「君の気持ちはありがたく受け取っておくよ。啓一、明日はお前も連れて行くからな」

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