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狂想 6-1
「口を開けて」
言われるがまま、孝司は口を開く。
切れた唇が痛んだが、温かい食事を前にして泣き言は言えなかった。人肌に温められた白粥は、片山の手作りだろうか。市販のものよりも出汁が効いていて、悔しいが美味だった。
「さあ、もう一口」
頭上から降ってくる片山の声は優しく、出会った頃のような気持ちにさせられる。全身に数ヶ所の打撲を負った孝司は布団から起き上がることができずに、片山の介助なしでは食事も満足に摂れない。
一方で甲斐甲斐しく世話を焼く片山は、どこか楽しそうだ。
「口の端に米粒がついているぞ。俺が取ってあげよう」
スプーンを器用に操り、片山は孝司の口についた米粒をすくい取ると、自分の口へと運んだ。
「美味いな。孝司もそう思うだろう?」
「そうだね。美味しいよ」
「俺の作ったものは全部美味しいだろう?」
「うん。でも、もうお腹いっぱい」
孝司がそう言うと、片山は残念そうに眉尻を下げたが、無理はさせられないとわかって、残りは自ら食べた。
ある程度胃が満たされると、今度は眠たくなる。まどろみの世界へ落ちようとする孝司の視界に、いつまでもスプーンを舐めるいやしい男の姿があった。
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