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狂想 7-1
「何、突っ立ってるんだ。早く行くぞ、仁科」
「ああ……すまない、啓一。陽の光が眩しくて」
先を行く啓一が棒立ちの仁科に注意を促す。
この場所に来る前に仁科のむさくるしい髪を整えさせ、吊るしものだがスーツも新調した。
こざっぱりした仁科はオフィス街に馴染んでいた。
「それにしても似合うな。普段からそうしていれば、お前もモテるだろうに」
「君に言われても褒められた気がしない。君に比べたら私は……」
「もっと自信を持てばいい。お前はお前だろう」
背後で息を呑むかすかな声が聞こえたが、啓一は構わずにエントランスに入り、エレベーターホールへ足を進めた。エレベーターが到着するまで、仁科はずっと足元を見つめていた。
「怖いのか?」
「……ああ、怖いさ。私は誠実な君と違って卑怯な人間だからね。今にも逃げ出したくてたまらないよ。だけど――」
仁科はしっかりと前を見すえる。
「――私は変わらなければならない。自分の足で前に進む。それが、君たち兄弟へのせめてもの償いになればと思っているよ」
そこにいたのは妄執から解放され、新たなる一歩を踏み出そうと誓った仁科智の姿であった。
「あの頃に戻ったようだな」
「あの頃?」
「大学時代だよ。実を言うと……あの頃のお前が、俺は好きだった」
「啓一……」
「さあ行くぞ。時間は待ってくれない」
啓一はすっと身を引き、仁科を前に立たせた。
エレベーターが到着し、仁科が目的のフロアのボタンを押す。
ディスプレイが三階を表示し、扉は開かれた。
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