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狂想 11-1

 首筋にピリリとした痛みが刻まれる。その刺激で孝司は深淵に落ちていた意識を取り戻した。  自分の身に、いったい何が起こったのだろう。身体中が痛い。目の前がぼーっとする。吐き気がする。頭が痛い。何も考えられない。  ぐるぐると思考は回り、着地点を探す。ここはどこだ。どうして全身が痛む。この嫌な臭いは何だ。頭が痛い。何も考えられない。  ふいに、懐かしい声がした。  あれは。あの声は――。 「孝司くんを傷つけるな!」  ――サトシ?  その瞬間、孝司の意識ははっきりと覚醒する。 「サトシ!」  水底から急激に浮上した意識が、この状況はおかしいと訴える。  どうして仁科が目の前にいるのか。どうしてそんなにも不安そうな目で見るのか。首筋に当たる冷たい何か。いや、それは孝司自身の体温で温められ、しだいに熱を帯びていく。  鉄だ。これは刃物だ。 「危ないからおとなしくしていなさい」  背後の片山が突然動いた孝司に告げる。抱きこむ腕はじんわりと汗ばんでいる。この部屋の淀んだ空気の正体はいたる所に放置された生ごみと片山の放つ体臭だった。何もかも異常なこの空間。  だが孝司は自分でも気づかぬうちに、この空間に飲みこまれてしまっていた。 「よかった! 来てくれたんだね!」  そう言った瞬間、対面の仁科の顔が曇った。

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