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陽人の父親は県都の市議会議員だ。
代々市議を輩出している地元の名士の家柄。
陽人が将来、父親の跡を継いで市議になりたかったのは知っていた。
その為にも県内随一の進学校、一ノ瀬高校へ行く事は、陽人の夢への一歩だった。
そんな陽人の夢を、自分が邪魔してしまうなんて……
陽人から離れなきゃいけない、と思った。
俺が弱虫でいじめられてばかりいるから、陽人は心配で離れられないんだ。
いじめっ子に立ち向かって、強くならなくちゃいけない。
ーー陽人には嫌われても良いから、距離を置かないと…
自分の事なんてどんな風に思われてもいい…
陽人の夢が叶うのならばーーー
ひい婆ちゃんの葬儀の後、美空のヘアカラー剤で髪を染めた。
染色した髪と耳のピアスを見て美空は「柚希、どうしたの?」と聞いてきた。
でも、何も言えなかった。
噂が発端で親友を避けなきゃならないなんて知ったら、美空を傷付けてしまう。
美空とは何でも話してきて、二人で力を合わせて生きてきた。
だから、美空が知らなくても良いことは言わないで、正直に胸の内を吐き出した。
「強くなりたいから…大切なもの、守りたいから…」
「…うん、そっか。柚希かっこいいよ。男の子って感じ。ママはいつだって柚希の味方だからね!」
俺より少しだけ背の高い美空が、ぎゅっと抱き締めてくれた。
◇
「柚希…」
「…………」
「じゃあ、今から言う事は、俺のただの独り言だから、気にしないで」
何でも見透かしてしまいそうな、真っ直ぐで澄んだ目で俺を見つめる。
俯いて無言で答えないでいると、陽人は俺を気遣うように呟き始めた。
「柚希は人の目を気にして、俺と会うのを避けたいのかなって」
陽人は聡明だから、何でもバレてしまう。
心が読めるのかも、なんて考えた事が何度かあった。
「でも俺は親友、やめるつもりはないよ。だったら、隠れ処と家で会う分には問題ないんじゃないかな?家にあがる所を見られたくないのなら、勝手口から出入りすればいいし。鍵の隠し場所教えあってさ。連絡はスマホですれば問題ないだろ?スマホの内容なんて、誰にもわからないんだから」
そこまでして親友を続けたいという、
陽人の気持ちが素直に嬉しいし、涙が出そうになる。
そんな価値、俺にはないし……
寧ろこれから先、陽人の足を引っ張ってしまうんじゃないかって。
後ろ向きな気持ちでいっぱいになる。
「これからもずっと、俺と柚希は親友だからな」
屈託のない笑みで、俺を見つめる。
その綺麗な瞳を見てると、沈んでいた気持ちが明るくなった。
陽人はいつも俺を、明るい方へと導いてくれる。
暖かい光を照らし、包み込んでくれる。
この世でたったひとつの、
俺の太陽ーーー
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