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あれから陽人とは、家や隠れ処ではお互い遊んだり、話したりした。
ただ、学校では言葉を交わす事は、一切しなかった。
遠藤達は俺が歯向かってからは、睨んだりしてきたりはするけど、何もしてこなくなった。
他の傍観者は
『あんなに仲良かったのにな』
『やっぱり、生徒会長とヤンキーじゃ、釣り合わない』
なんて、好き勝手に噂している。
そしてあの日からすぐ、陽人には彼女が出来た。
学校で一番美人だと言われてる、3年の先輩。
そんな美女にも負ける事のない、美丈夫な陽人。
サラサラの黒髪と、小さな輪郭。
その中にある、バランスのいいアーモンドアイに黒曜石のような瞳。
鼻筋の通った高い鼻。
いつも微笑んでいるみたいに、口角の上がった唇。
手足が長くて背もすらりと高い。
細身なのに肩幅がしっかりあって、筋肉もついていてスタイルが抜群に良い。
女子達がひそかに『王子様』とあだ名で呼んでるのも頷ける。
美男美女でとてもお似合いだったのに、3ヶ月もすると別れてしまった。
それでもすぐに、トップクラスの可愛い彼女が出来ては、3ヶ月もしないで別れてしまう。
遊び人じゃないけど、モテモテの陽人には絶え間なく彼女が出来た。
それでも長続きする事はなかった。
「陽人って飽き性なの?」
「そうじゃないって。彼女に“つまらない”とか“イメージと違った”て毎回フラれてばかりだよ」
「陽人がフッた事はないんだ」
「そっ。毎回、向こうからだよ。いい加減、凹む」
「女が贅沢なんじゃねぇの?裏表もないし、すげぇ優しいし、顔だけじゃなくて性格だって良いだろ。俺は陽人といると楽しいけどな」
「柚希が女の子だったら、マジで付き合いたい。子供の頃一目惚れしたくらい、俺の理想なんだけど。試しに、付き合わない?」
「ははっ、何言ってんの。男同士ないって」
「だから、冗談だって。でも、可愛いとは思ってる」
熱っぽい目を細めて俺を見つめ、髪を撫でられた。
俺が女だったら、完全に落ちてる。
真剣な顔でそんな事言われたせいか、顔が熱くて心音が激しくなる。
「やめろって!くすぐってぇよ!」
「本当、柚希って髪の毛、フワフワで柔らかい。目もクリクリと大きくて、猫みたいでかわいいよな」
「あー、小動物系の可愛いってやつだろ。よく言われるわ」
「えっ?誰に?」なんて、陽人が食いついてくる。
「美空の店に顔出した時にいる、おっさん」というと「危ないから気を付けろよ」なんて。
ありえない事言ってくるから、思わず吹き出した。
◇
気がつけば、中学3年の5月になっていた。
晴天が続き、毎日汗が吹き出すほど暑かった。
陽人は選挙で圧倒的得票数を得て、二度目も生徒会長に当選した。
サッカー部では、不動のエース。
3年は6月の県大会を最後に引退になる。
俺は一匹狼のヤンキー。
ヤンキーっていっても、いじめられない為の、張りぼてみたいなの。
だから、他のヤンキーや強い奴に絡まれないよう、
危険な場所や、遅い時間は出歩くのは回避している。
弱虫のヤンキーだ。
そういう臭覚と、身のこなしは素早い。
昔から走るのだけは、早かったし。
だからこの3年間、平穏無事に過ごす事が出来た。
そう、あの日まではーーー
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