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その日も5月だというのに、茹だるように暑い日だった。
中間テストが終わり、下校中の面々はホッとした面持ちをしている。
俺は金銭面で働きながら通える、定時制か通信制の高校が希望だった。
全日制の学校へ受験を控えている、同級生達よりは幾分気持ちに余裕があった。
それでもテスト期間中独特の、周りのピリピリした空気や緊張感が伝わると、流石に気が重くなる。
終わればそんな空気から解放され、気持ちは軽くなった。
期間中は陽人と会えなくなる事が、一番寂しかった。
進学校へ行く陽人の邪魔にはなりたくない。
だから、テストが終わるのをモヤモヤしながら待っていた。
スマホには陽人から
《部活があるから、終わったら夜遊びに行くね》
とメッセージが来ていた。
俺は弾む気持ちで、猫のスタンプのOKを送った。
◇
家に着くと、汗まみれの体が気持ち悪くて、クーラーを全開にしてからシャワーを浴びる。
Tシャツとハーフパンツを着て、ペットのお茶を飲みながらクーラーで涼む。
ーーーピンポーンーーー
玄関のチャイムが鳴った。
美空がネットで何か買ったのかと思い、チェーンをしたままドアを開ける。
「こんにちは、美空。突然ごめん。この間店で話した昼職の事なんだけど。先方から資料を預かって説明したくてさ。他にも面接希望者がいるから、急ぎで連絡欲しいみたい。美空電話出ないし、今日休みって聞いてたから家まで来ちゃった」
あぁ、この人も俺と美空間違えてる。
よくある事だから、特に気にならなかった。
美空は中学時代の大親友が出産するから、店を臨時休業にして朝からそっちへ行ってしまった。
帰りは何時になるか解らないって言っていた。
病院だから電話にも出られないのだろう。
「あの、母なら急用で出掛けてるので家にいません」
「えっ?美空の子供?女の子?」
「男です。何かあれば伝言しますが」
「あー、直接話して決めたかったから…まぁ、今回は残念ってことで。また良い仕事見つけたら連絡するって伝えといて」
美空は俺が大学や専門学校へ行けるように、給与の良い昼職を探していたのは知ってる。
進学しないで就職するって言ってるのに、柚希は頑張れば頭良いんだからって譲らない。
自分の店との掛け持ちだし、中卒で変な噂のある美空に見つかる昼職はなかなか無かった。
今は理解のある知人のコンビニで働いている。
ドアの向こうにいる男は茶髪で、二十歳前後と若い感じだ。
賢そうな感じがするから、大学生のように見える。
資料が入ってるのか、肩から大きな黒いバッグを掛けていた。
店って言ってたから、多分スナックの客だろう。
柔らかく丁寧な口調と、整った顔に薄く笑みを浮かべているけれど、切れ長の眼光が鋭くて少し怖い。
ーー信用できる…のか……?
折角見つかった昼職だし、給与や条件が良いなら、逃してしまうのはもったいない話だ。
話だけ聞いて良い仕事なら、美空に急いで連絡すれば間に合うかもしれない。俺からの電話なら間違いなく出るだろうし。
「その仕事の話、俺が聞いても大丈夫ですか?もし母に連絡ついたら、まだ間に合います?」
男は俺をじっと見て少し考えた後、「間に合うよ」と答えた。
チェーンを外し、リビングへ招き入れる。
グラスに氷を入れアイスコーヒーを出した。
余程喉が乾いていたのか、男はガムシロやコーヒーフレッシュは入れずブラックで、ストローを使わずにゴクゴクと旨そうに飲み干した。
テーブルに資料を広げ、会社の説明をし始める。男は子供の俺にもわかるように、丁寧に噛み砕いて優しく説明をしてくれた。
それでも、難しい話で解らない部分もあったけど、悪くない話だと思った。
「今日特に暑いね。すげー喉乾いちゃった。アイスコーヒーおかわりもらっても良い?図々しい事言ってごめんね」
男は柔らかく微笑み、申し訳なさそうにグラスを差し出してきた。
「今、持ってきます」
俺は受け取ったグラスを持って立ち上がり、キッチンへ向かおうとした。
その時ーーー
いきなり、背後から男が近付いてきた。
バチッという大きなスパーク音と共に、
ビリビリとした体験した事のない、
強烈な痛みが走る。
目の前が真っ暗になったーーー
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