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遠退いていた意識が戻ってきた。
腰に衝撃があった辺りがまだ痛む。
霞んだ視界が徐々にクリアになっていき、目の前にいる男の姿がハッキリと見えてきた。
「起きた?」
男は目を細め、笑みを浮かべていた。
激痛で気を失って、今は仰向けに寝てるのだろうか。
男の背後にある天井は……
多分、俺の部屋の天井だ。
背中に柔らかい物が当たる。
マットレス?
ベッドの上なのか?
「あの、すみません。倒れちゃったみたいで……」
「スタンガンで気を失ったからね」
えっ……
こいつ、何言ってんだ……
スタンガンて???
怖い……
逃げなきゃ……
頭のてっぺんから足の先まで、全身が粟立つ。
脳内に警鐘が響き、細胞が逃げろと言っている。
「…………!」
逃げようと思ってるのに、腕を動かす事が出来ない。
ベッドの両端の支柱に、両手が手錠で拘束されている事に今更気付いた。
「やっ、なんで……!!!」
どうしてこんな事になっているのか、意味が解らなくてパニックになる。
「本当は美空狙いだったけど、お前の事見たら気が変わった。親子なのに双子みたいにそっくりだな。初々しくて美空より可愛いかも」
「何言ってんだよ!ふざけんな!外せよ!」
「質問に答えたら外してやるよ」
「答える訳ねぇだろ!外せよ、変態!……ぅぐっ…!」
鳩尾に鈍い打撃音がして、強く重い衝撃を受ける。
胃の物がせり上がり、息が出来ない。
苦しくて口をパクパクしてると、男が地を這うような低い声で「いいから答えろよ」と恫喝してくる。
「お前、名前は?」
「うぅっ………ゆず…き…」
声を絞り出しなんとか答える。
気持ちの悪さと痛みで、生理的な涙が零れる。
殴られるのなんて初めてで、あまりの痛みと恐怖で震えが止まらない。
「柚希か。名前も可愛いな。ちょっと痛かったか」
男が涙を指で掬い、ペロッと舐めた。
「いくつ?」
「……14」
「この辺じゃ東中だな。中2?」
「…3年…です」
「やんちゃしてる中坊は殆ど知ってる筈なんだけどな。柚希の事は知らなかった。後で東中の奴、シメとくわ」
何で二十歳くらいの大人が、中学生の事なんて知ってるのか不思議だった。
妹か弟でもいるのだろうか。
「そうそう、俺は樋浦柊(ひうらしゅう)。俺の事、柊って呼んでいいから。柚希は可愛いから特別ね」
「ーーーー!」
名前を聞いて息を呑んだ。
樋浦柊ーーー
半グレ集団SHGのリーダー。
中1から頭角を表し、高1でSHGを創設した。
親が建築業をしていて、ヤクザとも関わりがあるらしい。
相当ヤバい奴だって聞いた事がある。
この辺り、県北にいるヤンキーは全て柊の手下だ。
配下にならなければ、リンチや嫌がらせにあうから、腕っぷしの強いヤンキーですら恐れて従ってる。
ーーなんで俺、こんな奴家に入れたんだよ……
自分が情けなくて、涙がしとどに零れてくる。
体はずっと震えが止まらなくて、強張ってしまい動けない。
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