9 / 134

7

遠退いていた意識が戻ってきた。 腰に衝撃があった辺りがまだ痛む。 霞んだ視界が徐々にクリアになっていき、目の前にいる男の姿がハッキリと見えてきた。 「起きた?」 男は目を細め、笑みを浮かべていた。 激痛で気を失って、今は仰向けに寝てるのだろうか。 男の背後にある天井は…… 多分、俺の部屋の天井だ。 背中に柔らかい物が当たる。 マットレス? ベッドの上なのか? 「あの、すみません。倒れちゃったみたいで……」 「スタンガンで気を失ったからね」 えっ…… こいつ、何言ってんだ…… スタンガンて??? 怖い…… 逃げなきゃ…… 頭のてっぺんから足の先まで、全身が粟立つ。 脳内に警鐘が響き、細胞が逃げろと言っている。 「…………!」 逃げようと思ってるのに、腕を動かす事が出来ない。 ベッドの両端の支柱に、両手が手錠で拘束されている事に今更気付いた。 「やっ、なんで……!!!」 どうしてこんな事になっているのか、意味が解らなくてパニックになる。 「本当は美空狙いだったけど、お前の事見たら気が変わった。親子なのに双子みたいにそっくりだな。初々しくて美空より可愛いかも」 「何言ってんだよ!ふざけんな!外せよ!」 「質問に答えたら外してやるよ」 「答える訳ねぇだろ!外せよ、変態!……ぅぐっ…!」 鳩尾に鈍い打撃音がして、強く重い衝撃を受ける。 胃の物がせり上がり、息が出来ない。 苦しくて口をパクパクしてると、男が地を這うような低い声で「いいから答えろよ」と恫喝してくる。 「お前、名前は?」 「うぅっ………ゆず…き…」 声を絞り出しなんとか答える。 気持ちの悪さと痛みで、生理的な涙が零れる。 殴られるのなんて初めてで、あまりの痛みと恐怖で震えが止まらない。 「柚希か。名前も可愛いな。ちょっと痛かったか」 男が涙を指で掬い、ペロッと舐めた。 「いくつ?」 「……14」 「この辺じゃ東中だな。中2?」 「…3年…です」 「やんちゃしてる中坊は殆ど知ってる筈なんだけどな。柚希の事は知らなかった。後で東中の奴、シメとくわ」 何で二十歳くらいの大人が、中学生の事なんて知ってるのか不思議だった。 妹か弟でもいるのだろうか。 「そうそう、俺は樋浦柊(ひうらしゅう)。俺の事、柊って呼んでいいから。柚希は可愛いから特別ね」 「ーーーー!」 名前を聞いて息を呑んだ。 樋浦柊ーーー 半グレ集団SHGのリーダー。 中1から頭角を表し、高1でSHGを創設した。 親が建築業をしていて、ヤクザとも関わりがあるらしい。 相当ヤバい奴だって聞いた事がある。 この辺り、県北にいるヤンキーは全て柊の手下だ。 配下にならなければ、リンチや嫌がらせにあうから、腕っぷしの強いヤンキーですら恐れて従ってる。 ーーなんで俺、こんな奴家に入れたんだよ…… 自分が情けなくて、涙がしとどに零れてくる。 体はずっと震えが止まらなくて、強張ってしまい動けない。

ともだちにシェアしよう!