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12 ~陽人 side~
部活が終わり、部室で汗でびしょ濡れのユニフォームを脱いで、制服に着替える。
体中ベタベタして、髪もまだ湿ったままだ。
家に着いたら、速攻でシャワーを浴びて、汗を流してスッキリしたい。
夕食時だというのに、だいぶ日が伸びて、まだ外は明るかった。
スマホの画面に写る、柚希からの“OK”の猫のスタンプを目を細めて眺めた後、『部活終わった。今から帰る』とメッセージを送る。
ーー柚希、待ってるかな…
密かに胸を高鳴らせ、想い人に逢える事に心を弾ませる。
初めて逢った時から、俺は柚希の事が好きだった。
友達としてではなく、男と女のそれと一緒で、恋愛感情を含んだ『好き』だ。
もちろん、セックスもしたいと思ってる。
淡白で初(うぶ)な柚希に対して、俺が劣情を抱いている事を知ったら、俺の事を軽蔑してしまうだろうか。
それとも、俺がマイノリティの方へ道を外さないように、避けるようになるかもしれない。
どっちにしろ、柚希を失う事になるんじゃないかって思っている。
柚希は自分の事より、俺の事を大切に思ってくれている。
『親友』としての俺を、だ。
ひい婆ちゃんの葬儀の後、俺の将来の夢を邪魔しないよう、身を引こうとしていた。
その時ですら、喪失感に目の前が暗くなり、必死に説得して繋ぎ止めた。
あんな思いをするくらいなら、一生友達でいいと思った。
自分の気持ちを誤魔化す為に
柚希を諦めて他に好きな人を作りたくて
今まで告白されても断っていたけど、あの日以来告白してきた子と付き合うようになった。
どんな美人や可愛い子と付き合っても、
セックスしても……
柚希への気持ちは変わる事がなかった。
彼女になった相手からは、
『陽人くん、私の事ちゃんと見て』
『いつも誰の事考えてるの』
と問い詰められた。
その度にはぐらかしてきたけど、最終的に愛想を尽かして、俺の元を去っていった。
相手に対して、酷い事をしている自覚はある。
自分でも本当に最低な奴だって思う。
それでもーーー
ずっと柚希の側にいる為なら、
一生『友達』として、
『普通の男』として、
誤魔化しながら生活する事なんて
何一つ苦だとは思わなかった。
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