14 / 134

12 ~陽人 side~

部活が終わり、部室で汗でびしょ濡れのユニフォームを脱いで、制服に着替える。 体中ベタベタして、髪もまだ湿ったままだ。 家に着いたら、速攻でシャワーを浴びて、汗を流してスッキリしたい。 夕食時だというのに、だいぶ日が伸びて、まだ外は明るかった。 スマホの画面に写る、柚希からの“OK”の猫のスタンプを目を細めて眺めた後、『部活終わった。今から帰る』とメッセージを送る。 ーー柚希、待ってるかな… 密かに胸を高鳴らせ、想い人に逢える事に心を弾ませる。 初めて逢った時から、俺は柚希の事が好きだった。 友達としてではなく、男と女のそれと一緒で、恋愛感情を含んだ『好き』だ。 もちろん、セックスもしたいと思ってる。 淡白で初(うぶ)な柚希に対して、俺が劣情を抱いている事を知ったら、俺の事を軽蔑してしまうだろうか。 それとも、俺がマイノリティの方へ道を外さないように、避けるようになるかもしれない。 どっちにしろ、柚希を失う事になるんじゃないかって思っている。 柚希は自分の事より、俺の事を大切に思ってくれている。 『親友』としての俺を、だ。 ひい婆ちゃんの葬儀の後、俺の将来の夢を邪魔しないよう、身を引こうとしていた。 その時ですら、喪失感に目の前が暗くなり、必死に説得して繋ぎ止めた。 あんな思いをするくらいなら、一生友達でいいと思った。 自分の気持ちを誤魔化す為に 柚希を諦めて他に好きな人を作りたくて 今まで告白されても断っていたけど、あの日以来告白してきた子と付き合うようになった。 どんな美人や可愛い子と付き合っても、 セックスしても…… 柚希への気持ちは変わる事がなかった。 彼女になった相手からは、 『陽人くん、私の事ちゃんと見て』 『いつも誰の事考えてるの』 と問い詰められた。 その度にはぐらかしてきたけど、最終的に愛想を尽かして、俺の元を去っていった。 相手に対して、酷い事をしている自覚はある。 自分でも本当に最低な奴だって思う。 それでもーーー ずっと柚希の側にいる為なら、 一生『友達』として、 『普通の男』として、 誤魔化しながら生活する事なんて 何一つ苦だとは思わなかった。

ともだちにシェアしよう!