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15 ~柚希 side~
「やめてっ……!」
絞り出したような掠れた自分の声で目が覚めた。
体中冷たい汗が流れ、胸が喘いだ。
時計を見ると既に真夜中過ぎだ。
嫌な夢を見た。
信じられないような夢だ。
思い出すだけで、呼吸が苦しくなり震えが止まらない。
額の汗を拭った時にヒリッとした痛みを感じる。痛む場所を見ると、手首には血が滲んでいて赤く痕が出来ていた。
ーー夢じゃない……
夢であってほしかった。
悪夢を見せた張本人は既にいなくなっていた。
その事には安堵したものの、嫌でも乱暴の痕跡が目に入ってきた。
体に無数に散らばるキスマークと歯形。
腫れて赤紫色になってる頬と鳩尾。
体液が付きシミになってるシーツや衣類。
ゴミ箱に山のように捨てられた、使用済みのティッシュ。
曝されたままの下半身。
そして、本来性行為で使われる事のない場所への痛みーーー
暫くの間、天井を見つめ呆然としていた。
横たわる体は鉛のように重く、全然力が入らない。
息をしているのに、肺に酸素が届いてないみたいに苦しい。
こめかみに温かいものが伝う。
勝手に目から涙が流れていた。
ーーー初めて死にたいと思ったーーー
生きてる価値なんてないと思った。
自分が汚いもののように思えて、気持ちが悪くて仕方がない。
ーー汚い…汚いから、シャワー浴びないと…早くしないと、美空に気付かれる前に…こんな所見られたら悲しむから。部屋も片付けて、陽人にメッセージ返して、いつもみたいに、いつも通りにしてなくちゃ……
力の入らない体を必死に起こして、着替えを抱えてノロノロと浴室へ向かう。
体を動かす度に、腰や股関節、臀部に痛みが走る。
その痛みで思い出したくない事を思い出してしまう。
ーー何も考えるな。早くしないと。
1階にも人の気配はなかった。
美空が帰ってきてない事が、せめてもの救いだった。
シーツと衣類に付いた汚れを手洗いした後、洗濯機に入れてスイッチを入れた。
シャワーのレバーを回し、頭から飛沫を浴びる。
クタクタの体をここまで動かし、痕跡を消す事が出来た事に一気に力が抜け、壁に手を付いて支えないと立っていられなかった。
早く汚れた髪や体を洗いたいのに、手も足も思うように動かない。
ーーなん、で……
股の間に違和感を感じた。
震える指でそこへ触れる。
指先に薄くピンク色をした、血の混じった白濁が付いていた。
後孔からは大量の白濁が溢れ、内腿にどろりとした感触が伝い落ちる。
男に注がれた欲で内側から汚された事を、まざまざと思い知らされる。
呼吸が苦しくなり体が震え、四肢が自重を支えられなくなり、床にペタリと座り込んだ。
頬に当たるシャワーの水滴と混じりながら、涙が滝のように零れ落ちる。
汚い……
自分が汚くて仕方ない……
消えたい……
消えてしまいたい……
このまま水に溶けて、流れて
どこか遠くへ消えてしまえばいいのに……
頭から降り注ぐ飛沫に打たれながら、動くことが出来ずにいた。
気が付けば何時間も、床の上に座り込んだままだった。
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