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髪も体も何回も洗って、何回も流した。
それでもまだ、汚れがこびり付いているみたいで、気持ちが悪かった。
皮膚が赤くなってヒリヒリしてきて、そこで漸く洗うのを止めた。
ーーシャワーから出たら、メッセージ確認しないと。陽人に何て返せば良いだろう……
ドライヤーで髪を乾かしながら、言い訳を考える。
部屋に戻ると空気がひんやりとしていた。
性行を思い出すような臭いと、柊のタバコと香水の臭いを消したくて、窓を開けたままにしていたからだ。
初夏といっても、夜中過ぎの外気は半袖ではまだ肌寒い。
いつもならベッドに腰掛けるけど、座る気にならなかった。
普段滅多に使わない学習机の椅子へと座る。
スマホを見ると、美空と陽人からメッセージが来ていた。美空からは、帰りが明日になるかもというものだった。
陽人からは思ってもないメッセージが来ていた。
《柚希ごめんね。部活で怪我して、今日は行けそうにない。明日遊びに行けたら行くね》
メッセージの後に、必死にくまが謝る“ごめんね”の動くスタンプが表示される。
ーー陽人怪我したんだ。引退試合前なのに大丈夫かな……
あんな出来事のせいで苦しくて気が狂いそうだったけど、陽人が心配で今は頭の中がそれだけになる。
くまのスタンプで少し気持ちが和むと、睡魔が襲ってきた。
体を休める為だと自分に言い聞かせ、忌まわしいベッドへ横たわった。
◇
翌日、体がまだダルい上にお腹の調子が悪くて、ベッドから起き上がれない。
学校が休みで良かった。
昼過ぎに帰って来た美空が心配して、寝てないのにたまご粥を作ってくれた。
この後お店へ仕事に行かなくてはならないのに、睡眠時間を削って、お米からコトコトと丁寧に作ってくれた。
俺が具合が悪くなると作ってくれる、定番の料理だ。
吐き気も酷くて食欲がなかったけど、一口食べてみる。
体がじんわり温まり、美空の愛情が伝わる。
美空の心配そうな顔に、一口食べて安心する顔に、涙が出そうになる。
ーー死にたいなんて、思ってごめん……
心の中で美空に謝る。
生きなきゃ、生きていかないとダメだ。
あんな卑劣な人間の為に、大切な人を悲しませるような事はしちゃダメだ。
だから、忘れよう。
あんな事忘れて、美空や陽人、大切な人の事だけ考えて生きよう……
元気になる為にも、たまご粥を一口、また一口と食べ進めた。
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