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殆ど1日寝て過ごしたのに、まだ眠る事が出来た。
自分が思ってた以上に体はボロボロで、すごく疲れているみたいだ。
それでも、悪夢に魘され、何度も目が覚めた。
「大丈夫?」
何度目かわからない覚醒。
窓の外が暗いから、すでに夜なんだろう。
目の前には心配そうな顔の陽人がいた。
「陽人……」
「魘されてたよ。悪い夢でも見た?」
ベッドに腰を掛け、優しい顔で除き込んでくる。
その優しい微笑みを見てるとホッとして、不安だった気持ちが落ち着いた。
「……そうだな。すごく嫌な夢…」
「そっか。夢だから、大丈夫だよ」
「それより、陽人のおでこと手、それ……」
怪我した事は知っていたけど、目の前にいる陽人の痛々しい姿に驚いた。
おでこに出来たたんこぶは赤紫色に変色して、左手首はギプスで固定され三角巾で吊るされている。
「昨日はツイてなくてさ。練習で正面衝突しておでこぶつけたり、変な風に転んで骨にヒビ入ったり。本当災難だよ」
「試合…出れるのか?」
「ギプスが取れるの1ヶ月後だし、暫くは運動出来ないって。だから、難しいかな」
「そんな…だって陽人小さい頃からサッカーしてて、最後の試合だろ…」
「そっ。高校行ったら勉強に集中したいから、サッカーは中学で辞める。だから司令塔として、ベンチからチームを引っ張って優勝させるよ。俺が怪我したおかげで、逆にチームワークがすごく良くなった感じだしね」
自信ありげに笑う前向きな陽人を見て、本当に眩しいと思った。
どんなに逆境でも、陽人はそれを力に変え前に突き進んでいく。
そして陽人は有言実行の人だから、きっとサッカー部を優勝に導くだろう。
「明日も練習休むから、予定がないんだ。泊まってもいいかな?」
「俺は構わないけど、陽人痛くないのか?」
「腕固定させるのに枕かクッション借りてもいい?」
「これしかないけど」
美空がスーパーの貯まったポイントでもらった、誰も使ってない猫の抱き枕を陽人に渡すと陽人がくつくつと笑い出した。
「そんなに変か?」
「ごめん、そうじゃなくて。柚希に似てるからさ」
「はぁ?似てねーよ」
「可愛くてそっくりだよ」
「ふざけんな、バーカ」
「ごめん、ごめん。可愛いって言われるの気にしてるもんな。でもさ、柚希は可愛いから仕方ないよ」
「うるせぇ」
からかう陽人にムッとしながら、ベッドの横に布団を敷く。
敷かれた布団へ仰向けに寝そべると、陽人はうとうととして、すぐに寝てしまった。
朝早くから病院へ行ったみたいだし、受診するまですごく時間がかかったみたいだ。
その後、練習中の部活の顧問や部員へ少しの間休む事の説明や謝罪をしたみたいだから、結構疲れていたのかもしれない。
目の下にクマが出来ていたし、昨日は痛くて眠れなかったんだろうな…
無理かもしんないけど、早く良くなって、最後の試合に出て欲しい。
サッカーが大好きで、ずっと、すごく頑張ってきたの知ってるから。
それにしても……
寝顔も本当、美形だよな。
まさに、『王子様』って感じ。
陽人の綺麗な寝顔に、暫く見とれていた。
美しいものを目にして、こころが洗われて、穢れた身体も浄化されているようだった。
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