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月曜日の放課後、下校時間が過ぎてるのに、学校から出る事が出来ない。
プールのコンクリートの擁壁沿いに息を潜めるようにしゃがみこみ、 警戒しながらそっと校内を覗き見る。洗ったばかりの真っ白な上履きは、土足で走り回ったせいで泥が付いて薄汚れていた。
隠れ処の、屋上近くに2人。
保健室のまわりに、3人。
校門付近に、6人以上。
校庭には何人いるのかすら、わからない。
校内のあちこちに、学校中のヤンキーが彷徨いていた。
ーーなんで、こんな事になってんだよ……!
◇
カシャッ
ーーシャッター音?聞こえた気がするんだけど……それに視線…誰かに見られてる……?
登校中、カメラのシャッター音といくつかの視線を感じて、周囲を見渡した。よく見かける同じような顔ぶれで、怪しい人物や車なんかはなかった。いつもの光景と特に変わりはなく、何の問題もない。
ーー気のせい…?か……
なんか変だ
いつもと違う
学校へ着いてからも、教室にいる時も、休み時間になっても……
違和感は感じたけれど、確証みたいな物がつかめない。
一応、警戒して度々まわりを気にしてみたものの、やはり何ら変化はない。そんな事を繰り返しているうちに、しまいには気にも留めなくなってしまった。
ーー陽人……
頭の中は陽人の事でいっぱいだった。
陽人が家へ帰った後も、今朝目が覚めてからも、気が付くと陽人の事ばかり考えていた。
帰ったら、陽人に会える……
リハビリ……するのかな…?
たくさん、キスしたい……
陽人に触れたい……
もしかしたら…今日は陽人と…………
陽人の事を考えると、心がじんわりとあたたまり、体が熱くなった。心臓が激しく動き、生きてるって感じがした。
それと同時に、考えれば考えるほど、逢いたくて仕方がない。
ーー今すぐ逢いたい……
愛しい人と離れているのが、こんなにも寂しくて苦しい事だなんて、気持ちに気付く前は知らなかった。友達だった頃の寂しさとは違い、逢えないというだけで虚無感まで感じてしまう。
早く時間が過ぎてほしいのに、そんな時に限って時計の針は進まなくて…
教室の時計を何度見ても、時間はさっきと同じままで動かない。
1秒がまるで1分のように感じる。
キーンコーンカーンコーン……
終礼が終わり、待ち望んでいたチャイムが鳴った。
一日がゆっくりと動いていて、ものすごく長く感じた。
ーー陽人に逢える!
バッグを肩に担ぎ、猛ダッシュで教室を飛び出した。その時、舌打ちや怒鳴り声が聞こえた気がしたけど、今はそんな事どうでも良かった。
走るのだけは、昔から早かった。
小学校6年までは運動会でリレーの選手に選ばれて、いつもアンカーで陽人と競っていた。
何でも出来る優等生の陽人と、走る時だけは対等になれた。
劣等生の俺が陽人と同じ場所へ立てた気がした。それがすごく嬉しくて、自分に自信を持つ事が出来た。
ーー中学になってからは、逃げる時しか走ってないな。また陽人と、思いっきり走りたい。
そんな事を考えている時、昇降口の方から人のざわめきが聞こえてきた。
苛立って焦ってるような声や、バタバタと走り回る足音がして、やけに騒がしい。声の感じから、男連中が群れでいるみたいだ。
うるさいな、と思いながらも逸る気持ちで下駄箱へ向かい、廊下を走る。
だんだんと声が近付き、耳に入ってきた話の内容に、冷たい汗が流れ、背筋が凍りついた。
慌てて足を止め、下駄箱手前の階段脇にある、大きな防火扉へひっそりと身を潜めた。
「内海、いたか?」
「こっちにはいねぇ」
「あのチビ逃げ足早いし、影が薄すぎて見つけにくいわ」
「顔以外なら、ボコっても良いって。見つけ次第、捕まえろ!」
「急がねぇと、樋浦さんイラついてて、マジでヤバいから!」
ーーうそ…だ…ろ………
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