24 / 134

22

月曜日の放課後、下校時間が過ぎてるのに、学校から出る事が出来ない。 プールのコンクリートの擁壁沿いに息を潜めるようにしゃがみこみ、 警戒しながらそっと校内を覗き見る。洗ったばかりの真っ白な上履きは、土足で走り回ったせいで泥が付いて薄汚れていた。 隠れ処の、屋上近くに2人。 保健室のまわりに、3人。 校門付近に、6人以上。 校庭には何人いるのかすら、わからない。 校内のあちこちに、学校中のヤンキーが彷徨いていた。 ーーなんで、こんな事になってんだよ……! ◇ カシャッ ーーシャッター音?聞こえた気がするんだけど……それに視線…誰かに見られてる……? 登校中、カメラのシャッター音といくつかの視線を感じて、周囲を見渡した。よく見かける同じような顔ぶれで、怪しい人物や車なんかはなかった。いつもの光景と特に変わりはなく、何の問題もない。 ーー気のせい…?か…… なんか変だ いつもと違う 学校へ着いてからも、教室にいる時も、休み時間になっても…… 違和感は感じたけれど、確証みたいな物がつかめない。 一応、警戒して度々まわりを気にしてみたものの、やはり何ら変化はない。そんな事を繰り返しているうちに、しまいには気にも留めなくなってしまった。 ーー陽人…… 頭の中は陽人の事でいっぱいだった。 陽人が家へ帰った後も、今朝目が覚めてからも、気が付くと陽人の事ばかり考えていた。 帰ったら、陽人に会える…… リハビリ……するのかな…? たくさん、キスしたい…… 陽人に触れたい…… もしかしたら…今日は陽人と………… 陽人の事を考えると、心がじんわりとあたたまり、体が熱くなった。心臓が激しく動き、生きてるって感じがした。 それと同時に、考えれば考えるほど、逢いたくて仕方がない。 ーー今すぐ逢いたい…… 愛しい人と離れているのが、こんなにも寂しくて苦しい事だなんて、気持ちに気付く前は知らなかった。友達だった頃の寂しさとは違い、逢えないというだけで虚無感まで感じてしまう。 早く時間が過ぎてほしいのに、そんな時に限って時計の針は進まなくて… 教室の時計を何度見ても、時間はさっきと同じままで動かない。 1秒がまるで1分のように感じる。 キーンコーンカーンコーン…… 終礼が終わり、待ち望んでいたチャイムが鳴った。 一日がゆっくりと動いていて、ものすごく長く感じた。 ーー陽人に逢える! バッグを肩に担ぎ、猛ダッシュで教室を飛び出した。その時、舌打ちや怒鳴り声が聞こえた気がしたけど、今はそんな事どうでも良かった。 走るのだけは、昔から早かった。 小学校6年までは運動会でリレーの選手に選ばれて、いつもアンカーで陽人と競っていた。 何でも出来る優等生の陽人と、走る時だけは対等になれた。 劣等生の俺が陽人と同じ場所へ立てた気がした。それがすごく嬉しくて、自分に自信を持つ事が出来た。 ーー中学になってからは、逃げる時しか走ってないな。また陽人と、思いっきり走りたい。 そんな事を考えている時、昇降口の方から人のざわめきが聞こえてきた。 苛立って焦ってるような声や、バタバタと走り回る足音がして、やけに騒がしい。声の感じから、男連中が群れでいるみたいだ。 うるさいな、と思いながらも逸る気持ちで下駄箱へ向かい、廊下を走る。 だんだんと声が近付き、耳に入ってきた話の内容に、冷たい汗が流れ、背筋が凍りついた。 慌てて足を止め、下駄箱手前の階段脇にある、大きな防火扉へひっそりと身を潜めた。 「内海、いたか?」 「こっちにはいねぇ」 「あのチビ逃げ足早いし、影が薄すぎて見つけにくいわ」 「顔以外なら、ボコっても良いって。見つけ次第、捕まえろ!」 「急がねぇと、樋浦さんイラついてて、マジでヤバいから!」 ーーうそ…だ…ろ………

ともだちにシェアしよう!