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「柚希が大人しく俺について来れば、誰も傷付かないですむぜ」 スマホの画面を見せられる。 そこに映し出されていたのは、拘束されている大夢と、怪我をして動けなくなっている友紀だった。 目の前で起きている信じられない現実に、恐怖と罪悪感で胸が張り裂けそうだった。 ーー大夢…友紀も……みんな…俺のせいで…… 「生徒会の奴はすぐに解放するけど、遠藤はグループを裏切ったから、その制裁はきっちり受けてもらう。もし拒めば、他の仲間もこの先どうなるか、わからないぜ……一ノ瀬高校出て、将来は市議になりたいんだろ、あいつ。夢、叶わないかもな。まあ、柚希の返答次第では、陽人の事、許してやっても構わないよ」 柊が絵空事で、そんな事を言ってるとは思わなかった。 確実に陽人の夢を、将来を潰しにかかる。 ーー俺が……俺が柊に従えば、陽人も、友紀も、大夢も……他のみんなも危害を加えられる事はないんだ…… 「……本当に……俺がついて行けば……みんなに何もしないのか……?」 「しないよ。でも、ただついて来るだけじゃダメだぜ。そのまま、俺と一緒に暮らしてもらう。学校も俺の大学と同じ、姉妹校へ転校させる。朝も昼も夜も、毎日ずっと離さない。言う通りにすれば、誰にも何もしない。その代わり、あいつらには二度と会わせないから」 もう、みんなに逢う事は出来ない…… 陽人にも……逢えない…… また、昔みたいに独りに戻るだけ…… それだけの事だ…… 前と違うのは、 陽人がいないだけで 陽人のいない世界で 陽人のいない場所で 柊と生きていく…… それだけの事…… ーー陽人が……いない……所…… そう考えが至った時、悲しみの感情が抑えられなくなって、声を押し殺して涙を流した。 絶望で真っ暗になった頭の中で、今までの出来事が、走馬灯のように蘇ってきた。 『ゆずゆずの事、迷惑だなんて思ってないよぉ』 『俺らもう、友達じゃん』 『ユズ先輩は友達だよ』 『柚希が俺達の事、友達だと思ってなくても構わない。俺達は柚希の事を既に友達だって思っているからな』 《柚希先輩、ありがとう》 『許してもらえるなんて、思ってねぇから……征爾と有働から話を聞いて、力になりたいって勝手に思ってるだけだし』 『自分を犠牲にする事は二度としないで……それだけは約束して』 『守るよ……形だけじゃなくて、柚希の事、必ず守る……柊から絶対に守るから……』 『柚希………………愛してるよ……』 本当に短い間の出来事で、まだ新しくて若葉のような想い出ばかりだった。 それでも、どれも大切で、 ひとつも失いたくない、 かけがえのない想い出ばかりだった。 ずっと、独りでいるのが楽だと思っていた。 俺の言葉なんて、誰も信じてくれないし、 俺のせいで、誰かに迷惑かけるのは、心の底から嫌だった。 何もないモノクロの世界で、陽人だけが唯一の希望の光で…… 陽人はそんな俺の事を、暖かくて明るい場所へ連れ出してくれた。 そこには、 俺の言葉に耳を傾けてくれる、 俺に優しく笑いかけてくれる、 俺に手を差し伸べてくれる、 沢山の仲間がいた。 そうだ…… 約束、したんだ…… 自分を犠牲にしないって…… みんなは俺の為に、覚悟を決めてくれている…… 陽人だって、怪我をしてまで、守ろうとしてくれていた…… そして…… 俺の事を、心から愛してくれたーーー それなのに、 俺がこんなに弱気で、どうするんだよ……! 「行かない……柊の所なんて、行きたくない!」 今までこんな力があったなんて、自分でも信じられないような力で、柊に肘鉄を食らわした。 柊の呻き声が聞こえ、力が僅かに緩んだ。 その隙に、檻のような腕の中から素早く逃げ出した。 ーー戻る!絶対に、戻る!みんなのいる所へ。陽人の隣へ。柊が何と言おうとも、俺の居場所はそこなんだ!

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