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67 ~稀瑠空 side~
静まり返る生徒会室で、俺と近衛はパソコンとタブレットを黙々と操作していた。
ただ闇雲に探しても時間と労力がかかるだけだ。送られてきた画像を分析して場所を特定する事から始めた。
「近衛、ここ見て。壇みたいになってる」
ヒロ先輩の背後の床の奥が高くなっていて、壇上みたいな作りになっていた。
「壁を拡大してみると、穴のようなものがありませんか?画質が荒くて確証はありませんが」
「そう見えるね。ヒロ先輩が縛り付けられてる椅子は、教室で使ってる木製のものと同じじゃない?」
「同じだと思います」
壇上があって、壁に無数の穴が開いていて、教室と同じ椅子の置いてある場所……
「音楽室!」
「急ぎましょう」
俺と近衛は、北棟3階角にある音楽室へ向かって走った。その途中で顧問に出くわし、走っているのを注意される。
「先生、紺野先輩の事、呼び出しましたよね?」
「いや……紺野の事は呼び出してないけどな。それに、今日は一度も会ってないよ」
「……わかりました。明日、資料の最終確認お願いします」
「資料作成大変だったな。生徒会のみんなは、頑張り屋ばかりだから、あまり根を詰めすぎないようにしなさい。稀瑠空、少し痩せたか?」
このままだと話が長くなりそうだと思って、どう返答するか考えを巡らせる。顧問は穏やかで良い人だけど、話し始めるとやたら話が長いからそれが最大の欠点だ。
「お褒めの言葉、ありがとうございます。ここ最近忙しかったので、痩せたのかも。先生すみません、急いでいるので……明日終わった後にでも、先生とみんなでお疲れ様会も兼ねて、お話でもしましょう」
「あぁ。じゃあ、明日だな。ちゃんと食べろよ。あと、廊下は走らない事!」
走るなと念を押され、北棟に繋がる渡り廊下に出るまでは、早足で歩いて誤魔化した。廊下に出た途端、俺と近衛は一斉に駆け出した。
渡り廊下を抜け、北棟の階段を駆け上がり、廊下の奥にある音楽室へやっと着いた。生徒会室から音楽室は結構距離があるから、二人とも息を切らし汗を流していた。
ドアを開けようとするが、扉は固く閉じて動かない。中から鍵をかけられてるみたいだ。
「生徒会執行部です。DMの件で来ました。開けてください」
ノックをして、中へ声をかけた。
ーー何人いるんだろう……絢斗は少数だって言ってたけど、油断は出来ない。
少数でも精鋭揃いなら、こっちが不利だ。近衛は強いけど、俺は護身術の為にクラヴマガを習ってるくらいだ。下手に喧嘩に加わったら、足手纏いになる。
あれこれ考えてると、カチャリと音がしてドアがゆっくりと動き始めた。
「来るよ……」
「御意……」
ドアが開くまでの間、おれも近衛も即座に応戦できるように身構えた。
「よかった。稀瑠空に来てほしいって、思ってたんだ」
「おまえ……」
ドアを開け出て来たのは、生徒会室に盗聴器を仕掛けた生徒だった。細身でメガネをかけてソバカスだけがやけに目立つ、地味でパッとしない男だ。
ーーあと何人、中にいるんだ……
ドアの向こう側を推測しながら、冷や汗がこめかみをだらりと伝った。
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