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真っ暗だ。深い深い暗闇。
何か物音がする。
暗いのは、目を瞑ってるからか?
エンジンの音がして、体が揺さぶられる。
聞き覚えのある声と、知らない複数人の男の声。
なんとなく覚えている、このシチュエーション……
ーー……拉致された時の事を、夢見てるんだ……
寧ろ、夢だったら良かったのに……
そう思えるくらい……
思い出したくもない、悍ましい体験だった。
※ ※ ※ ※
「樋浦さん、準備出来ました」
「似合ってるな」
誰かが、俺の頭を撫でながら言っている。
そのまま、その手で頬を軽く叩かれる。
「柚希、起きて」
叩いた主が、俺の名前を呼んで起こしてきた。
目を開けると、冷たく笑う柊と、派手な髪色でタトゥーとピアスだらけの男達がいた。
柊にトイレでレイプされ、気を失って拉致されたまでは、なんとなく覚えてるけど……
見覚えのない建物の室内で、知らないガラの悪い人間達に囲まれ、恐怖で体が震え上がった。
「…………ここ…どこ……?」
震える声で尋ねる。
歯がカチカチ合わさる音が、耳の中で響いていた。
小刻みな震えが、ずっと止まらない。
「俺の店」
店なんて言ってるけど、ただのマンションの一室にしか見えない。
「お前の事、これから躾直すから。ヤス、写真撮って」
柊に呼ばれたヤスという男は、他のガタイの良い人相の悪い連中と違って、金髪でスラリと背が高くてモデルみたいな美青年だ。ヤスは従業員みたいな人に店長と呼ばれ、カメラを渡されていた。
デジカメを構えるヤスに言われるままに、体育座りをして上目遣いでレンズを見つめた。
「この子、可愛いっすねぇ」とヤスが言うと、柊は嬉しそうに「そうだろ」と答える。他にも色んなポーズをさせられ、シャツのボタンを開けられたりもした。
そういえば、気を失っている間に着せられたこの制服……
県南の金持ちばかりが通う、私立の男子高の制服だ。
制服を着せられただけではなく、何故か頭は黒髪のウィッグを被せられ、ピアスは外されていた。
「何で……緑が丘高校の制服、着させられてるの?」
「これから、仕事してもらうから」
「えっ……?」
「おまえが俺に逆らい、他の奴と浮気した罰だよ」
言っている意味が、理解出来なかった。
中学生に仕事させるって、そもそも法律違反だし。
それに仕事なのに、何で高校の制服なんて着させられるんだろう……
ヤスがデジカメとパソコンをケーブルで繋いで、キーボードとマウスを操作している。
「可愛いから勿体ないけど、顔はモザイク入れて。年齢は15歳。高校一年。身長は155cm。体重は42㎏。セクシャリティはノンケ。体型は細身で華奢。NGプレイは、タチとソフトS。紹介文は、“色白で体毛は薄く、ツルツルスベスベした触り心地のいい美肌。仔猫みたいに目がクリッと大きくて、お見せできないのが残念なくらい、とても整った可愛い美少女顔をしています。声変わりをまだしてないので、大変啼かせ甲斐があります。業界完全未経験、未熟で初々しい、感度良好でエッチなS級美少年。本日限りのデリヘルデビュー。完売必至、早い者勝ちです”……こんな感じか。あと客だけど、出禁の客もブラックリストの客も、きちんと金払う奴なら、誰でもいいからつけて。出勤時間は今からラストまで。お泊まりコースは可能。こいつの休憩時間は一切なしで。予約キチキチに入れていいから」
「えっ……!?でも、この子って、こういう仕事初めてですよね?こんな内容じゃ、体ぶっ壊れますよ……」
「構わねぇよ。こいつが悪いんだから」
「……わかりました。その代わり、様子みてダメそうなら、俺の判断でストップします」
「そうして」
話してる内容の意味は、全然わからないけど……
“デリヘル”ーーー
その単語で、
これから何をやらされるのか……
全てを理解した。
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