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「こ、子供が……風俗…なんて……違法だろ……」 デリヘルなんてやらされるなら、殴られた方のがまだマシだ。殴られるのを覚悟で、震える声を搾り出し柊に突っかかった。 「違法だよ。でも、“必要悪”ってあるんだよ。買いたい側と売りたい側。お互いの利害関係が一致すれば、誰も口外しない。売買の場所がなくなったら、お互い甘い汁が吸えなくなっちまうんだからな」 考えが甘かった。 “違法”って言えば、少し怯むかもなんて少し期待してたが、相手は半グレのリーダーだ。 あっさりと違法と認め、正論のように言い返されてしまい、何も言えなくなる。 「この店は超高級会員制だ。会員の身元はしっかりしてるし、社会的地位のある金持ちしかいない。従業員は厳しく躾してあるし、口外させない。ま、裏切る奴がいたとしたら、きっちり制裁を加えるけどな」 人を殺めるような鋭く冷たい目で、柊は俺を見た。制裁がどんな恐ろしいものか……柊を知ってる人間なら、想像がつくだろう。 ーーこんな目で見られたら……怖くて逆らえない…… 蛇に睨まれた蛙みたいに、萎縮して動くことが出来ない。 「ついて来いよ」 強い口調で言われ、ビクビクとしながら立ち上がり、柊の後をついていく。 部屋を出て奥にあるドアを開けると、そこは広いリビングだった。とても広くて二十畳以上はありそうだ。 リビングには、名門校や進学校、お坊っちゃま学校の制服を着ている、顔立ちの整った少年達が十数人ほどいた。 みんな黒髪で、派手な子なんていない。 見た目だけなら、育ちの良いご子息みたいだ。 デリヘルで働いてるようには、とても見えない。 少年達はそれぞれ、自分のやりたい事をして過ごしている。 テレビを見てる子や、ゲームをしてる子、ひたすらスマホを弄ってる子。 本棚の漫画を読んでいる子や、テーブルでお菓子を食べてる子、鏡の前で熱心に自分の身なりを整えてる子。 それ以外の何人かは、ベランダで煙草を吸っている。 「おはよう。みんな、お疲れ」 柊が入ると、中にいた少年達は次々と挨拶をし始めた。「ヤスに金は渡してあるから、出前やコンビニで何でも好きなやつ頼んで」というと、少年達は「あざーす、柊さん」と頭を下げる。 「柚希も頼みたいのあったら、遠慮すんなよ」 「わかった……」 「柊!」 声の方を振り向く。 目を引く美しい少年が、小走りに柊へ近付いてきた。目元に泣き黒子があり、儚げで妖艶な雰囲気だ。 俺と柊の間に、割り入るように入り、ドンッと押し退けられた。 少年は俺を無視した上に、一切謝らない。 ーー顔は、メチャクチャ綺麗だけど……すげぇ、感じ悪ぃ…… 儚げな美少年は、柊の手に指を滑らせ絡めながら、柊を上目遣いで見つめ微笑む。 「柊、逢いたかった。最近、すごく冷たいよね……今夜、逢えないかな?」 「悪ぃ……オンナの事、躾なきゃならないから。暫く離れられないし、無理だ」 柊は少し離れた場所にいる俺を、冷たくじっと見た。 「へぇー…すごく、可愛い人だね……」 全く感情がこもってなくて、棒読みで態とらしい言い方だ。それに、睨むように見つめ、顔は死んでるみたいに、ひとつも笑ってない。 「君、制服着てるけど……ここで働くの?」 「まぁ……」 「今日一日だけな。ここで躾直すから」 「……ふーん。じゃあ、俺の優しい太客に宣伝してあげるからね。ふふふ」 可愛らしい声で笑ってるけど、意地の悪い嘲笑うような笑顔だった。濁った闇のような瞳に、ゾクリと寒気がする。 「この子は、No.1の美玲(みれい)。源氏名は“レイ”。こっちは柚希。源氏名は“ユキ”、な。柚希は、自分の源氏名ちゃんと覚えておいて」 「えっ?あっ……わかった……」 「客に本名言っちゃ、ダメだよ、ユキちゃん。そうだよねー、柊?ふふふ」 柊の方を向いた時の笑顔は愛らしくて、先程までの曇ったような笑いとは全く違った。 「そうだな。客に何聞かれても、本当の事言うなよ。ストーカーになる奴とか、危ない奴とかいるから」 「ユキちゃん、すごく躱すの下手そうだものね。大丈夫かな?客に色々聞かれて、何て答えていいかわからない時は、目を見つめて笑顔で誤魔化して」 「わからない事は、スタッフやここにいる子達に何でも聞いて。美玲はこの業界長いし、色々教えてくれると思うから。美玲、よろしくな」 「うん、ちゃんと面倒みる。だから、今度俺とデートしてね」 「わかった」 美玲はパッと顔を明るくし、柊に抱きついた。その時、俺をジロリと睨んだ。 ーーなんか……こいつ、ムカつく…… 柊は他にも仕事があるみたいで、終わったらまた来ると言って店を後にした。

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