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客の家を出る頃にはすっかり日が昇り、辺りは明るくなっていた。 柊に寄りかかるようにして車に乗り込み、望まない家路へと向かう。 途中、お店専属だという医者の所へ寄り、治療を受けた。 乱暴に嬲られ、傷つけられた身体は、思ったよりもボロボロで……痛み止めや化膿止め、塗り薬を処方され、無理をしないように医者に言われた。 正直、精神的なショックのが大きくて、身体の痛みはぼんやりとしか感じなかった。 「ここが新居だよ」 前に連れ込まれた場所とは、違うマンションだった。 高級で最上階の角部屋……と、金持ちしか住めないような条件は、前の住処と共通していた。 豪華なエントランスにオートロック、地下駐車場があり、モダンな造りの住居はとても広々としていて、ルーフバルコニーが付いた2LDKの間取りだ。 「シャワー浴びてきて」 言われた通りにシャワーを浴びる。 バスローブを羽織り、リビングで待つ柊の所へ行く。 「ここ、座って」 ソファーに深くもたれかかった柊が、足の間から見える座面をポンポンと叩く。 言われるままそこへ座ると、柊がドライヤーで髪を乾かしてくれた。温風を当てられ、人に髪を弄られるのは心地が良くて…… 一睡もしてない疲弊した体に、睡魔が襲ってくる。 眠気でボーッとしてる間にバスローブを脱がされ、黙々と柊は傷口へ薬を塗り始めた。目を伏せて丁寧に塗る姿を、呆然としながら眺める。まだ傷口は完全に瘡蓋になってない所があって、少しだけ薬がしみた。 一通り薬を塗り終えると、別の軟膏を取り出し、四つん這いにさせられる。 「よく耐えて頑張ったな……暫くここは、休ませような」 裂けて赤く腫れた後孔へ、労るようにそっと軟膏を塗布された。 「ンンッ……」 「まだ媚薬が残ってるから、感じるよな……声出していいぜ……辛かったな……」 勝手に反応する俺の身体を、厭らしい事をする訳でもなく、慰めるみたいに背中をそっと擦る。 男達に好き勝手に弄られ、ボロボロになった心身に柊の優しさが染みた。 用意されたTシャツとジーンズに着替える。ブランド物で品のいい組み合わせは、柊が選んだものだ。 柊はダークネイビーのかっちりしたスーツに、清潔感のある白いシャツと、一見無地に見える織柄の上品なネイビーのネクタイを組み合わせ、好青年といった感じの格好をしていた。 「今から美空の所へ行くから。俺の話にきっちり合わて、怪しまれないようにな。間違っても、助けを求めたり、逃げようとするなよ」 淡々とした口調で命令される。 柊に逆らうとどうなるか教え込まれた俺は、恐ろしくて歯向かう事なんて出来ない。 目を伏せながら、コクンと小さく頷いた。 ◇ 都会の街並みをミニバンが、車列の流れに合わせスムーズに走る。 車に揺られながら、移り変わる景色をぼんやりと眺めた。 青葉市とは違う景色だ。 一体、ここはどこなんだろう…… ーーーー白金ICーーーー 道路標識に記された文字を見て、白金ICに向かってるとわかった。自分が拉致された場所や住居が、県都の白金市だという事を、初めて知った。 俺の住んでいた青葉市から、白金市はわりと離れていて、車で片道1時間ちょっとはかかる。 実家へは高速で向かうから、30~40分くらいで着く感じだろう。 休憩でサービスエリアへ寄り、柊に食べたい物を選ぶように言われる。 あんな目にあって、正直食欲なんてない。 昨日の昼から、何も食べてないから、柊は心配している。 とりあえず誤魔化す為に、地元の名産のメーロウのプリンを手に取る。 柊に「それだけでいいのかよ?」と聞かれ、「これだけで、平気……俺の好物だから」と答えると、「柚希の好きな物か……」と柊はポツリと呟いた。 車はすぐに高速へ合流する。 県都を離れると、田んぼや畑の田舎の光景しか広がらない。 その素朴な風景を見つめながら、プリンを一口だけ食べ、あとは残した。 暫く走ると青葉ICで高速を降り、俺の家へ向かった。 住み慣れた家へ行くというのに、柊に話を合わせなきゃいけないプレッシャーで、気が張ったままで休まらない。 実家へ着き、美空の軽自動車の隣の、空いてるスペースへミニバンをバックで停めた。 大きい車なのに、狭くて難しい場所へ一発で駐車を決める。 柊は半グレのリーダーなのに、運転は丁寧で交通規則もちゃんと守っていた。 車線変更をしようとしている他の車に道を譲ったり、信号のない横断歩道で待っている歩行者がいると車を停止して横断させたり…… 意外に真面目なんだなって。 怖くて冷酷な所しか知らないし、イメージでは交通規則なんか守らないで、自分勝手な運転をするのかなって思っていたから…… そのギャップに正直、驚いた。

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