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※ ※ ※ ※ 目覚めると、鳥籠のような部屋の中だった。 ここに来てからは多分、3日くらいは経っている。 悪夢のような夢は、本当の事で…… 俺は柊に拐われて、 養子縁組をして夫婦となり、 ……そして、監禁されている。 首元に手をやると、無機質な皮の首輪と冷たい鎖が指に触れた。耳にはイヤホンが付いていて、今も柊と電話が繋がったままだ。 嫌でもこれが現実だって、改めて実感させられる。 ぼんやりとしながら寝そべってると、勝手に涙が出てきた。 寝返りを打ち、鼻を啜ってると、イヤホンから『起きたの?』と声が聞こえた。 「んっ……」 『泣いてるの?』 「んっ……」 『俺がいなくて、寂しい?』 「…………うん」 何て答えれば、柊が不機嫌にならないか…… 怒らせないような答を導き出し、相槌を打つ。 『もう少しで着くから。メーロウのプリンも、ちゃんと買ってきたよ』 「ありがとう……待ってる」 返事はなかったけど、柊が機嫌が良さそうなのは伝わってきた。 無言のまま、柊が到着するまで電話は繋がっている。 ドアの開閉音がし、「ただいま」と先ほどまでの電話の主が部屋に入ってきた。 手にはメーロウのロゴが入った、茶色の紙袋を提げている。 俺に近付くと、鎖とイヤホンを外した。 手を引かれながら、リビングへ移動する。 ソファーに腰かけた柊は、グイッと俺の手を引っ張り、足の間に座るように促しては強引に座らせる。 「こんなに軽いんじゃ、倒れるぜ。ほら、食べて」 メーロウの黄身の濃い固めのプリンを、プラスチックのスプーンにのせ、俺の食べる速度に合わせ、ゆっくりと食べさせる。 食欲がなく、食べるのに慣れない体は、柔らかいプリンでもなかなか飲み込めなかった。 その様子を見ながら、急かすわけでも怒るわけでもなく、ただじっと待っている。 背中に伝わる温かい体温に、気ばかりが焦った。 「俺、食べるの遅いから……柊は自分の食べて」 「もう一個も柚希の分だよ。冷蔵庫に冷やしておくから、明日食べな。ゆっくりで構わない。怒らねぇから、少しずつ食べて」 「ごめん……」 「謝るなよ……謝るなら、食うのに口動かせよ」 優しく頭をぽんぽんとする。 ーーあんなに酷い事したのに……俺が食べられないのも、柊のせいなのに……甘やかしたり、優しくしたりするなよ…… 卑怯だ…… 柊の思い通りに心を操られてるみたいで、悔しかった。 柊の事は怖いと思う。 束縛や監視されるのは、苦しいし逃げたい。 それなのに…… 年上だから、甘やかすのが上手で、 壊れ物みたいに、大切にしてくれて、 包み込むように、優しくしてくれる。 嫌なのに…… 嫌いになれなかった。

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