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部屋の中は薄暗くてよく見えないけれど、ベッドの上で柊が丸まって座り、苦しそうに呻いているのがわかった。
ーーなんか、辛そうだな……
ベッドへ駆け寄り、しゃがみこんで、柊に声をかけた。
「……大丈夫?苦しいの?どこか、痛い?」
柊は膝に埋めていた顔を、ゆっくりと上げた。
その異様な光景に驚愕する。
涙をボロボロ流し、ヨレヨレの茶色のクマのヌイグルミを胸に抱え、体育座りで声を押し殺して泣いていたからだ。
俺の顔を見ると、柊は目を見開きすごく驚いた顔をした。
「母さん……?母さん…なの……?」
「えっ……?柊……?」
「母さんっ」と言った後、柊は子供みたいに顔をクシャッとさせ、声を上げてわんわんと泣き始めた。
しゃくりを上げ、感情を剥き出しにして泣く姿は、いつもの柊とは全く違った。
喋り方も、表情もどこか幼くて、まるで子供みたいだ。
落ち着くまで、しゃがんだままじっと待った。
泣き止むと、今度は穴が空きそうなくらい見つめられる。
いつもと違うあどけない表情で、じっくりと見られるのが、妙に気恥ずかしい。
それに、見てはいけないものを、見てしまったという後ろめたい気持ちもあって……
そそくさと立ち上がり、「ごめん」と言って立ち去ろうとした。
「行かないで……!」
行こうとする俺のバスローブを掴み、悲しそうな声で懇願する。
突然止められ驚いたけど、怒り以外あまり感情を出さない柊の悲しそうな声に、そのまま動けなくなってしまう。
ちょこんと座る柊の横に座ると、甘えるみたいに俺の胸に顔を埋めた。
「母さん……会いたかった……」
子供みたいな幼い喋り方や仕草の柊に、正直戸惑う。
それに、俺の事母さんて……
一体、どういう事なんだろう……
さっきまで泣いていたのに、今は無邪気に笑ってる。コロコロと変わる感情が、より子供っぽく感じた。
ーー柊のこんな笑顔……初めて見たかも……いつもの怖い柊と、今の柊は違う感じだけど……笑うと優しい顔になるんだ……
今まで見た事がない柊の姿に動揺しつつも、見慣れない笑顔から目が離せなかった。
ふと、辺りを見渡してみる。
部屋には余計な物は何も置いておらず、生活感が感じられなくてとても質素だ。
白い雪の結晶の模様が入った、水色のカーテンが窓にかかり、
カントリー調の木製のベッドに、
フワフワした水色のタオルケットと、
オフホワイトのタオル地のシーツと枕。
他にあるのは、ベッドの横に蓋付の子供の玩具箱のような物があるだけだ。
ヘビースモーカーなのに、灰皿さえなかった。
ーー俺の知ってる柊の趣味とは違って、素朴で優しくて、温かみのある感じ……
俺の胸元の布をクシュッと掴み、大きな体を丸めて必死にしがみつく柊。
俺より大きくて逞しいのに、幼子みたいでなんだか可愛らしく感じた。
縋り付く柊の背中に手を回して抱きしめ、そっと頭を撫でた。
「頭なでなで、うれしい」
頬を染めながら、はにかんで笑う柊を見ると胸が締め付けられた。
今まで感じた事のない不思議な感情が、じわじわと湧き上がってきた。
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