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柊の寝室で朝を迎えた。
この部屋のカーテンは遮光タイプじゃないから、朝日に照らされ部屋が明るい。
ベッドにはもう、柊の姿はなかった。
「どこにも行かないで」と縋るように柊に抱きつかれ、離れる事が出来なかった。
お腹をポンポンしながら添い寝をしてあげて、柊の穏やかな寝顔を見てたら俺まで眠くなって……
結局、そのまま俺も寝てしまい、朝になってしまった。
本当は柊より先に起きて、部屋を出るつもりだったけど、朝が弱くて起きる事が出来なかった。
ーー昨日の柊は、いつもと様子が違ったから、怒らなかったけど……約束を破って部屋に入った事……怒ってるかな……
怒られるかもと、ビクビクしながらリビングへ行くと、いつもと変わらない光景が広がっていた。
テーブルには、お味噌汁と炊きたてのご飯、半熟の目玉焼とカリカリのベーコン、新鮮な野菜サラダとフルーツにヨーグルト。それと、俺は野菜ジュース、柊はブラックのコーヒーがそれぞれの席に置いてあった。
柊はバルコニーでラタン調のガーデンソファーに座り、煙草をふかしてる。
鋭い目付き、無表情な顔で、外の景色を眺めている。
いつもの柊だ。
「あの……勝手に部屋に入って……ごめんなさい……」
「別に、構わねぇよ。それよりも……俺、何かおかしくなかったか?うるさかったりした?」
怒られると思ったのに、柊は穏やかだった。
逆に夜の事を問われてしまい、驚く。
ーー柊は……寝ている時の自分を、知らないんだ……
幼い柊の事を知らない柊に、本当の事を言ってはいけない気がした。
「大丈夫だったよ」
平然を装い、嘘を吐いた。
「ガキの頃、暁と一緒に寝た時に、『夜中に夢遊病みたいになって、ビックリした』って言われてさ。それからは、寝る時は一人で寝るようにしてる」
自分が幼くなる事は知らないけど、寝ている時に夢遊病っぽくなるのは知っていた。
冷たい表情で、鋭い眼光の鬼畜な柊と
子供みたいに、無邪気に笑う柊……
ーー何かトラウマがあって、二重人格みたいになってるのかも……柊の過去に、何があったんだろう……
今まで一度だって、柊の事に興味がわかなかった。
ただ、怒らせないように、喜んでもらえるように考えるだけで、柊自身を知りたいだなんてなかった。
少し寂しげな目で空を眺め、静かに煙草を吸う柊の横顔を、暫くの間見つめていた。
◇
それからは、部屋で一人で眠る柊の事が気になり……
夜中にこっそりと、柊の部屋へ様子を見に行くようになった。
ヌイグルミを抱いて、子供みたいに泣いている柊を見ると、胸が締め付けられ苦しくなった。
ちょっと様子を見たら自室に戻るつもりが、いつの間にか部屋の中に入っていて、柊の事を抱きしめていた。
ギュッとしがみつき、「ずっと、僕と一緒にいてね」と心底嬉しそうな顔をして言う柊を見てると……
心がじんわりと温かくなると同時に、チクリと痛くなった。
思わず「ずっと、一緒にいるよ」なんて……
守れるかわからない約束をして、幼い柊を安心させていた。
添い寝をして、そのまま柊の部屋で、朝を迎えるようになった。
柊は相変わらず、俺より先に起きてる。だから、目覚めるとベッドにはいなかった。
勝手に部屋に入って、ベッドで寝ている俺の事を、柊は怒ったり、咎めたりする事はしなかった。
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