121 / 134

116《5/6修正しました》

ぼんやりとテレビを見てると、インターホンが鳴った。 立ち上がり、モニターのスイッチを入れる。 エントランスのインターホンの前に立つ、宅配業者の姿が映し出された。横には大きなシートボックス付きの台車が置かれている。 柊がネットで、何か買ったのだろうか。 「はい」 『シロイヌ急便です。お荷物をお届けに参りました』 涙が頬を伝う…… 忘れるわけがない…… この声…… 帽子を目深に被ってるけど、愛しい口許が弧を描いている。 「はる……」 俺が思わず名前を言いそうになると、シーっと人差し指を口に当て止める。 『開けていただいても、よろしいでしょうか?』 耳を甘く伝う声に鼓膜は痺れ、心音が早まり体が熱くなる。 震える指で、オートロックの解錠ボタンを押した。 再びインターホンが鳴り、高鳴る胸を押さえドアを開ける。 「柚希……逢いたかった……助けに来たよ……」 ドアの向こう側には、涙目で微笑む、陽人が立っていた。 変わらない、優しくて眩しい笑顔…… ずっと、見たかった笑顔に、ますます涙が溢れてきた。 「はる……はると……はると……」 今まで、口にする事すら出来なかった愛しい人の名前。 只々、名前を繰り返し、呼ぶ事しか出来ない。 言いたい事、話したい事は沢山あるのに、名前を呼んだだけで、胸がいっぱいになってしまう。 「泣かないで、柚希……天井のカメラに映ってるから、自然にして。カメラに音声は入らないから、話してても大丈夫だよ」 「んっ……」 カメラにわからないように指で涙を拭って、ぐっと泣くのを堪えた。 「柚希があまり喋ってると怪しまれるから、返事は手短にしてね。今から言う、指示通りに動いてくれるかな?」 「わかった……」 「宅配業者とするような、自然なやり取りをしてほしい。柚希が荷物を受け取ったら、一旦、玄関のドアを閉めて。10分以内に絢斗と大夢が、監視カメラの映像を差し替えてくれる予定だよ。他にもみんな動いてくれてるから、絶対に上手くいく、大丈夫だよ」 「みんな……」 ーーみんなも、俺を助け出そうとしてくれているんだ…… 生徒会のみんなの顔が脳裏に浮かび、懐かしい気持ちになる。 「準備が整ったら、もう一度インターホンを鳴らすから。そしたら、一緒に逃げるよ……少しの間、待ってて」 「んっ……」 陽人に言われた通り荷物を受け取り、ドアの鍵を閉め、監視カメラのないリビングへ移動する。 足がフワフワして、力入らない…… 陽人に逢えるなんて…… 夢、見てるみたいだ…… あまりの高揚感に、現実味を感じない。 久しぶりに見た陽人は、相変わらずかっこよくて、王子様みたいにキラキラ輝いていた。 ーー何も考えないで玄関開けたけど……髪の毛とか、変じゃなかったかな…… 慌てて姿見で、身だしなみをチェックする。 ーーあっ………… 絆創膏だらけの身体を見て、現実に戻される。 それと同時に、柊に抱かれてた痕跡を陽人に見られてしまった事に、動揺を隠せない。 陽人はどんな風に思ったんだろう…… 監禁されて、脅されて、仕方なく…… …………多分、そう思ってる。 まさか、俺が柊に愛情を抱いてるなんて、きっと夢にも思ってない。 陽人を裏切ってるみたいで、後ろめたい気持ちになった。 それと同時に、あんなに酷い事をされたのに…… “そばにいる” “ずっと、一緒にいる” 幼い柊と、大人の柊とした約束…… その約束を破る事も、心苦しかった。 柊が無邪気に笑った顔が、脳裏に蘇る…… …………ごめん、柊…… 俺と柊の関係は間違ってる。 今のままじゃ、お互い幸せにはなれない。 本当の意味で、幸せになる為にはーーー ーー……ここから……逃げ出さなきゃ…… 今、優先すべき事を思い出し、気を取り直す。 ここでチャンスを逃したら、一生陽人に逢う事は、多分出来ない。 そして、逃げ出す事も…… 今度捕まったら、きっと陽人まで酷い目にあう。 もしかしたら、手伝ってくれてるみんなも。 だから…… 絶対に、失敗する訳にいかない…… ーーーーピンポーンーーーー 陽人からの合図だ。 迷ってる場合じゃない。 賽は投げられたんだ。 走り出す事以外、何も考えるな……!

ともだちにシェアしよう!