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ぼんやりとテレビを見てると、インターホンが鳴った。
立ち上がり、モニターのスイッチを入れる。
エントランスのインターホンの前に立つ、宅配業者の姿が映し出された。横には大きなシートボックス付きの台車が置かれている。
柊がネットで、何か買ったのだろうか。
「はい」
『シロイヌ急便です。お荷物をお届けに参りました』
涙が頬を伝う……
忘れるわけがない……
この声……
帽子を目深に被ってるけど、愛しい口許が弧を描いている。
「はる……」
俺が思わず名前を言いそうになると、シーっと人差し指を口に当て止める。
『開けていただいても、よろしいでしょうか?』
耳を甘く伝う声に鼓膜は痺れ、心音が早まり体が熱くなる。
震える指で、オートロックの解錠ボタンを押した。
再びインターホンが鳴り、高鳴る胸を押さえドアを開ける。
「柚希……逢いたかった……助けに来たよ……」
ドアの向こう側には、涙目で微笑む、陽人が立っていた。
変わらない、優しくて眩しい笑顔……
ずっと、見たかった笑顔に、ますます涙が溢れてきた。
「はる……はると……はると……」
今まで、口にする事すら出来なかった愛しい人の名前。
只々、名前を繰り返し、呼ぶ事しか出来ない。
言いたい事、話したい事は沢山あるのに、名前を呼んだだけで、胸がいっぱいになってしまう。
「泣かないで、柚希……天井のカメラに映ってるから、自然にして。カメラに音声は入らないから、話してても大丈夫だよ」
「んっ……」
カメラにわからないように指で涙を拭って、ぐっと泣くのを堪えた。
「柚希があまり喋ってると怪しまれるから、返事は手短にしてね。今から言う、指示通りに動いてくれるかな?」
「わかった……」
「宅配業者とするような、自然なやり取りをしてほしい。柚希が荷物を受け取ったら、一旦、玄関のドアを閉めて。10分以内に絢斗と大夢が、監視カメラの映像を差し替えてくれる予定だよ。他にもみんな動いてくれてるから、絶対に上手くいく、大丈夫だよ」
「みんな……」
ーーみんなも、俺を助け出そうとしてくれているんだ……
生徒会のみんなの顔が脳裏に浮かび、懐かしい気持ちになる。
「準備が整ったら、もう一度インターホンを鳴らすから。そしたら、一緒に逃げるよ……少しの間、待ってて」
「んっ……」
陽人に言われた通り荷物を受け取り、ドアの鍵を閉め、監視カメラのないリビングへ移動する。
足がフワフワして、力入らない……
陽人に逢えるなんて……
夢、見てるみたいだ……
あまりの高揚感に、現実味を感じない。
久しぶりに見た陽人は、相変わらずかっこよくて、王子様みたいにキラキラ輝いていた。
ーー何も考えないで玄関開けたけど……髪の毛とか、変じゃなかったかな……
慌てて姿見で、身だしなみをチェックする。
ーーあっ…………
絆創膏だらけの身体を見て、現実に戻される。
それと同時に、柊に抱かれてた痕跡を陽人に見られてしまった事に、動揺を隠せない。
陽人はどんな風に思ったんだろう……
監禁されて、脅されて、仕方なく……
…………多分、そう思ってる。
まさか、俺が柊に愛情を抱いてるなんて、きっと夢にも思ってない。
陽人を裏切ってるみたいで、後ろめたい気持ちになった。
それと同時に、あんなに酷い事をされたのに……
“そばにいる”
“ずっと、一緒にいる”
幼い柊と、大人の柊とした約束……
その約束を破る事も、心苦しかった。
柊が無邪気に笑った顔が、脳裏に蘇る……
…………ごめん、柊……
俺と柊の関係は間違ってる。
今のままじゃ、お互い幸せにはなれない。
本当の意味で、幸せになる為にはーーー
ーー……ここから……逃げ出さなきゃ……
今、優先すべき事を思い出し、気を取り直す。
ここでチャンスを逃したら、一生陽人に逢う事は、多分出来ない。
そして、逃げ出す事も……
今度捕まったら、きっと陽人まで酷い目にあう。
もしかしたら、手伝ってくれてるみんなも。
だから……
絶対に、失敗する訳にいかない……
ーーーーピンポーンーーーー
陽人からの合図だ。
迷ってる場合じゃない。
賽は投げられたんだ。
走り出す事以外、何も考えるな……!
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