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117 ~稀瑠空 side~
「柚希ちゃん、絆創膏貼ってるじゃん。俺、描き足すわァ。修正はこれぐらいじゃねぇのォ?」
《そうだね。他に修正するような所はなさそう。良かった……》
生徒会室でパソコンを二台並べ、絢斗とヒロ先輩が真剣に作業していた。
監視カメラの映像を差し替える為の、動画は予め作成してある。
今二人は、その映像の修正と微調整をしていた。
柊のマンションには監視カメラが2台。
ユズ先輩の寝室と玄関にあるだけだ。
カメラは白黒でコマ落ちしやすく、画質も悪い。だから、映像を作って差し替えても、恐らくバレる事はない。
絢斗はみんなには内緒にしてるけど、趣味で超写実の絵を描いていた。
繊細で写真のようにリアルな絵で、とても絢斗みたいなチャラ男が描いたとは思えない。
作品はSNSへ投稿していて、かなりのフォロワーやファンがいる。ライブ配信を時々しているけど、あまりの速さと技術力の凄さに、配信する毎にフォロワー数が増加していた。
その絢斗の絵を元に、ヒロ先輩が動画を作成している。
ヒロ先輩が監視カメラのシステムへハッキングした事で、今回の作戦が可能になった。
パソコンの技量が高い事と、知識が豊富な事は知っていたけど、そんな事まで出来るなんてすごく驚いた。
「何か手伝う事あるかな?」
二人のしている事が高度過ぎて、手伝えそうにないのはわかっているけど、声をかけてみる。
《稀瑠空は沢山情報仕入れてくれたし、何もしなくて大丈夫だよ。ありがとう》
「そうそう。稀瑠空は、ここにいるだけでOK。稀瑠空の綺麗な顔見てるだけで、俺のやる気がすげー出るからァ」
「バカ……」
ユズ先輩の救出当日に何も出来ない事がもどかしかったけど、ヒロ先輩の優しい言葉と、絢斗の調子の良い返事に、焦る気持ちが和らいだ気がした。
頑張る二人にせめてもと、アイスカフェオレを作って、マグカップを邪魔にならない所へ置き、液タブを無言で操作する絢斗の隣の席へ静かに座った。
《稀瑠空が一番、危険な役割だったのに……何事もなくて本当に良かった》
「俺は全然、良くないけどねェ……次は、こんな事、許さねぇしィ……」
「へぇー、自分は浮気する癖に、ね」
そう言いながら、絢斗に嫉妬されるのが少し嬉しかった。
俺の役割ーーー
それは、SHGの幹部と接触し、内部情報を手に入れる事だった。
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