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第4話 謎の『朱雀』

――楽しいはずの新学期だった。  悪友たちとも離れずに同じクラスになることができ、高校最後の一年間を思い切り謳歌できるはずだった。だが、ここ最近、何とも憂鬱な空気が彼らを押し包んでいることに、誰もが少々気の滅入る思いで過ごしている――その原因は一之宮紫月の変化だった。  四月も半ばを過ぎ、そろそろゴールデンウィーク間近という、本来は心躍る時期に何とも重苦しい空気が流れている。遼二をはじめ、四六時中を共にツルんでいる剛や京が揃って首を傾げる程に、ここ最近の紫月の様子がおかしいのだ。  いつもならば当たり前のように連れ立って帰る下校時も覇気がなく、ともすれば紫月一人だけで先に帰ってしまったりと素っ気ない。会話も少なくうわの空で、放課後の付き合いもめっきり減ってしまっている。  今日も違わず、授業が終わると同時にいつの間にか姿を消してしまった紫月に、遼二ら残された仲間たちは訝しげにしていた。 「なあ、あいつどうしたんだ? こんトコ、やたら付き合い悪くねえ?」 「だよな……。なーんか知んねえけど、ボーッとしちゃってよ。今日なんか昼飯だってロクに食ってなかったし」  剛と京が心配そうに口を揃える。一等仲がいいはずの遼二に、『お前は何か知らねえのか』といった調子で、二人は彼を見やった。 「分っかんね……。一週間くれえ前から急におかしくなったっつーか……ここしばらくずっとあんな調子だ」  遼二でさえワケが分からないなら自分たちにはお手上げだとばかりに二人はため息交じりだ。 「俺ら、紫月に何かしたっけ?」 「ヤツの勘に障るようなこととか言っちまったってか?」  真面目に頭を抱える剛らに、遼二も苦笑を返すしかない。 「まあ、元々あんまし愛想のいい方じゃねえ奴だけどな。なんか悩みでもあんのかな……」  とにかくは内輪で詮索していても埒が明かない。三人は思い切って当の紫月に理由を尋ねることにした。 ◇    ◇    ◇  次の日の放課後、案の定一人で足早に帰ろうとする紫月を昇降口で強引に捕まえると、行きつけの喫茶店で彼を囲み、遼二、剛、京の三人は居心地の悪そうに視線を泳がせていた。 「……なあ、お前さ、最近ちょっとヘンじゃねえ?」  重い空気を破るように遼二がそう切り出すと、それに乗っかるようにして残りの二人も身を乗り出す。 「そうそう! こんトコ、毎日先に帰っちまうしさ。あんま話もしねえし、何か悩みでもあんの?」 「つか、俺ら……何かしくじったとか?」  自分たちが気に障ることでもしちまったのか――というように訊く彼らに、紫月はクシャりと表情をゆるめ、苦笑した。 「や、別に……。お前らが何かしたとか、そんなんじゃねえんだ。ただちょっと気に掛かることができちまって……さ」 「気に掛かること?」  では悩みがあるということなのか――とにかくは自分たちに対してわだかまりがあるというわけでは無さそうなことに安堵してか、皆が一斉にホッと肩の力を抜いた。 「で、何の悩みがあんのよ?」  すっかり安心した京が、大口でハンバーガーをかじりながら訊く。 「そそ! 水臭えじゃんよ! 俺らで力んなれることあったら遠慮なく言えっての!」  剛は品良くソフトドリンクのみをすすり、遼二も他の二人に同様だと頷いた。  仲間たちに心配を掛けていたらしいことに、紫月は申し訳なさそうに視線を翳らせながらも、 「悪りィ……。ちょっと捜してるヤツがいてさ」  苦笑しながらそう言った。 「捜してるやつ?」 「……て、誰を?」 ――朱雀(すざく) 「は――?」 「朱雀って……何? つか、誰?」 「何、お前。まさか誰かに因縁付けられたとか、そういうの?」  四天学園で不良連中のアタマと言われている紫月は”玄武(げんぶ)”、遼二は”蒼龍(せいりゅう)”などという異名でもてはやされているので、”朱雀”と聞いて、咄嗟にどこかの不良にでも絡まれたのかというのが思い浮かんだわけだ。  つまりは、仲間を巻き込まないように独りでケリを付けようとしているわけか――それならばここ最近の単独行動にも納得がいこうというものだ。  そんなことなら喜んで力になるぜと盛り上がる悪友たちを目の前にして、紫月は少々困ったように微笑う。 「や、違えし……。絡まれたとか、因縁付けられたとか、そんなんじゃなくってよ」 「……? じゃあ、何?」 「いや、別に……」  紫月は微苦笑だけを浮かべ、それきり口をつぐんでしまった。  何とも歯切れの悪いことである。  その後、数日が経っても相変わらず覇気のなく、口数も少なく、おかしな様子が続く彼に仲間内の空気もますます重くなる。もう俺らでは埒が明かない――と、ため息しかでない剛と京も消沈気味だ。  そして迎えたゴールデンウィークの直前、このまま連休に入ってしまえば更に雰囲気が悪くなるのを懸念した遼二は、思い切って紫月の家を訪ねることにしたのだった。

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