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第13話 キスできる――?

「あの様子だとお開きになるまであと二時間くらいか……どうする?」  街中ならいざ知らず、人里離れたこんな山奥ではどうにも過ごしようがない。散歩するにしても、はたまたジョギングに繰り出すという手もあるが、真っ暗な山道で迷ったりしたらそれも”事”だ。夜露に濡れた草の上に腰を下ろすわけにもいかず、数時間をどう過ごすか迷いあぐねていた時だった。 「おい、あれ見ろよ。もしかしてロッジじゃね?」  自分たちが泊まっているのと同じようなコテージが点在しているのを発見して、二人はそちらへと歩を進めた。  中は静まり返っていて真っ暗である。人の気配も全くしない。 「今日は客入ってねえんじゃね?」 「――かもな」  このキャンプ場は、夏場は別として、オフシーズンには殆どが修学旅行生や学校行事のキャンプなどに提供される施設だというようなことを担任教師が説明していたのを思い出す。 「とりあえず座れるとこ見つかってラッキーじゃん。ここでしばらく時間潰そうぜ」 「ああ。ついでに……っと、もしか鍵が開いてたりしたら超ラッキー……なんだけどな」  そんな都合の良い展開はないかとばかりに、だがしかし、一応は扉を確かめようと遼二がノブを確認する。――と、 「うそ! 開いてる」 「マジ?」 「つか、ここって鍵自体が無えじゃん!」  室内側にも鍵穴が見当たらないのに驚いて、遼二はガチャガチャとノブを回したりして、あちこちを確かめていた。  当然だが、部屋の中は真っ暗だ。 「電気、一応スイッチあるけど、点けんのはさすがにやべえ……よな?」 「ああ、多分。俺らがキャンプ場入る時、管理事務所みてえのがあったし、あそこで一括管理されてるなら点けねえ方が無難かも」 「ま、いいさ。外、意外と寒みィし、部屋ん中にいれるだけでもラッキーだわ」  扉を閉めてソファに腰掛け、ようやくとホッとしたように二人は互いを見やった。 「なあ、紫月よー……」 「あ?」 「さっきはその、マジさんきゅ……な?」 「いいって」  紫月は笑った。  その笑顔が何とも清々しくて、そんな様子を目にしているだけで癒やされる気がする。  今頃、ロッジでは紫月のことを『下品な男』だとか、『愛想のかけらもない』とか、そんなふうに言われていないとも限らない。女たちにどう思われようが気にせずに、嫌われ役を買って出てくれた紫月に、頭の下がる思いでいた。 「どっちにしろ俺らが居ねえ方があいつらの為だろ? 今頃、いい具合に盛り上がってんじゃね?」 「そうかもな。騒ぎ過ぎて先公に見つかんなきゃいいけどな」 「どうだかな。もう消灯時間過ぎてるし、灯りも消さなきゃなんねえから、そこまでバカ騒ぎはしねえだろ」 「まあな。つか、案外暗闇ン中でエロい方向に盛り上がってたりして」 「あー……有り得るかも。やっぱ出てきて正解だったわ」  またもや可笑しそうに紫月は笑った。  そんな話題がきっかけとなって、気付けば何となく互いの”経験”についての話になっていた。 「お前、キスとかしたことある? つか、それ以上とか?」 「あー、まあそれなりに……ってか?」  少々照れ気味で遼二は視線を泳がせる。紫月に比べれば愛想の良く、誰に対しても如才ない遼二の方は、女たちから告白される回数も格段に多かったのは確かである。当然、経験値も上だろうというものだ。 「それなりって何よ? もしか最後までヤっちまったとか?」  興味有りげに訊く紫月に、ますます頬を赤らめながら遼二は言った。 「ヤってねえって! ただ……」 「ただ? 何よ?」 「や、何つーか……いきなし手ぇ掴まれたと思ったらよ、ブラジャーん中に持ってかれて、乳触らされた……くれえかな」 「マジで!? すげえ積極的な女だな」 「俺もビビった。キスしてて……確かに雰囲気はいいかなって時だったけどよ。それにしてもいきなし……だもんなぁ」 「ふーん。で、そのままどこまでヤったわけ?」 「や、だからヤってねえっての! 俺はちょっと……まあソノ気になっちまったんだけど……」 「勃っちまったってこと?」 「悪りィかよ……! つかさ、女がこれ以上はダメとか抜かしやがって、結局お預け状態! てめえで乳見せといて何だって思うわ」  むくれる様子を横目に、紫月は可笑しそうに声を上げて笑った。 「んな、笑うこたーねえだろ! そーゆーてめえはどうなんだって!」 「あー、俺? 俺はお前よか全然経験少ねえって」 「けど……キスくれえしたことあんだろ?」 「まあな」 「で、どうだった?」  身を乗り出して訊く遼二は、もう興味津々の様子である。 「どうって別に。普通に唇と唇をくっつけただけ」 「えー! そんじゃ、ベロちゅーはしてねえの?」 「しねえよ。つか、てめえは毎回ベロちゅーかよ」 「んな……毎回じゃねえけど。大概は……なぁ?」 「なぁ――って俺に訊くなよ」  紫月は笑い、だがふとそこで言葉をとめた。 ――雲が早い。  灯りの点いていない真っ暗闇の窓からは、木々の葉音と、時折見え隠れする半月が風の流れを伝えてくるだけだ。  急に静かになってしまった部屋で二人きり――身を乗り出して話していたので、顔が近い。 「遼二よー」 「あ……? 何?」 「お前、ベロちゅーできる? 今ここで。俺と――」 「……え!?」  キョトンとした顔が次第に戸惑いへと変化を遂げる。 「や、そりゃまあ……どうかな……ちゅーくらいならできっと思う……けど」 「ふーん。じゃ、普通のチューでいいよ。試してみようぜ?」 「試すって……何……を?」 「ん、野郎同士でチューすっと、どうかってのを」 「どうって……おまっ、おい……紫っ……!」  呼び掛けた名を取り上げられるように唇が重ね合わされた。

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