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第15話 二人だけの秘め事
(何しちまうか分かんね……!)
そんな心の声が聞こえてきそうな程に欲情しきった遼二の視線は酷く淫らで、同じ高校生のものとは思えない。自分の知らない大人びた表情の彼を目の前にして、紫月はドキドキとうるさい位に高鳴り出す鼓動にも面食らう心地がしていた。
戸惑う心の内を知ってか知らずか、遼二の大きな掌が上下する。そのスピードが次第に早く激しくなると同時に、とんでもない快感が背筋を走る――
「な……にしやがんだ、てめ……遼……二、いい加減に」
「……なぁ、おい……紫月」
「……ッん……だよ?」
「すっげ、見てみ? 汁出てヌルヌル……これ、どっちのだろ? 俺の? お前の?」
「……バッ……カやろ」
手を取られ導かれれば、先走りで濡れた雄と雄とが音を立てて絡み合う。
「な、お前も触って? 一緒にしごけって」
荒い吐息の合間に低い声がそう誘う。暗闇の中、興奮した瞳が射るように見つめてきたと思ったら、再び勢いよく唇を塞がれた。そしてまた、口中を掻き回されるような濃いくちづけで高められ、これではまるで動物同士の奪い合いだ。どこまでも押し寄せてくる快楽に塗れたくてどうしようもなくなってくる。
「やべえ、紫月……イキそう――」
「……ッ、よせバカ……ちょっ、手動かすのやめろっての……!」
「無茶言うなって! んなとこで、やめれるわけねっだろが……」
「分かって……っけど……」
(このままだと本当にイッちまう――!)
「遼二……てめ、覚えてろ……よ! こんなん……しやがって」
(ダメだ、マジでイきそう――!)
言葉とは裏腹にどうにもならない熱を帯びた硬い雄が、絶頂寸前というように紫月の表情は恍惚として、例えようもないほど淫らに熟れていた。
当の本人は自覚があるのかないのか、自ら腰を突き出し動かして、もっともっとというように手の動き追っている。そんな様子に、遼二は雄をしごいていないもう片方の手で彼の頭ごと胸の中に引き寄せた。
その瞬間、生暖かい白濁が互いの腹を濡らし――暗闇の中には、しばし興奮冷めやらぬ二つの荒い吐息の音だけが充満していた。
◇ ◇ ◇
「おい……そんなんで拭いちまっていいのかよ……」
「ああ、だいじょぶ。ジャージの上だけ羽織ってりゃ問題ねえだろ? 部屋に帰りゃ、替えのシャツがあっから。つか、他に拭くもんとか持って来てねえし」
自らのTシャツを脱いで白濁を拭う遼二の仕草を視線だけで追いながら、紫月は半ば腰砕けになったように力の抜けた四肢をソファの上に投げ出していた。
ふと天井を見上げれば、高窓から揺れる木々の葉影が映り込み、外はますます風が強くなってきていることに気付かされる。
突然の衝撃的な展開――自分たちは何故こんな所でこんなことをやっているのか、順序立てて頭の中で追おうにも、全くもって思考が付いていかない。
「な、すっげ秘密ができちまったな」
拭き取った欲望の痕が残るTシャツを丸めながら照れ臭そうにする遼二を、ある種、強者だと感心半分に見つめていた。
「秘密って、お前なぁ……。ま、最初にきっかけ作ったのは俺の方……だけどよ。にしても……」
よくよく考えれば確かにそうなのだ。男同士でキスしたらどうなるのか――そんな好奇心で気軽に放ったひと言が火を点けて、こんなことになっているのだから。
「……誰がここまでしろっつったよ……」
深いため息と共に頭を抱え込む紫月の脇に腰を落ち着け、遼二は不思議そうな顔で彼を見やった。
「んな、悩む程のことじゃねえだろ。気持ち良かったし、正直オンナとやるよか全然萌えたし!」
「萌えたって……。てめえにゃ罪悪感とか後悔とか……そーゆーの、ねえのかよ……」
「別に。お前は後悔してるわけ?」
「そーじゃねえけどよ……。まあ、てめえが平気だってんなら……いいけどな」
窓枠がガタガタと音を立てて、どこかに隙間があるのだろう――時折、風が吹き込んでくるのを感じる。
「なあ、もうここで寝ちまう? 朝になったら戻ればいいんじゃね?」
部屋の中をウロつきながら、掛け布団の代わりになるような物でも探そうというわけか。そんな遼二を横目に、紫月は今一度ほうっと深いため息を落とした。
まるで何事も無かったかのような普通の会話に、心のどこかで安堵している自分がいる。
「お前って……案外チャレンジャーなのな……」
「あ? 何それ」
「……何でもねえよ」
こちとら力が抜けてしまって、ソファの上に座ったまま動くのも億劫だというのに、この行動力は何だ。紫月はほとほと感心の眼差しで、遼二の一挙手一投足を呆然と目で追っていた。
「なあ、ほら。そこの棚の中にこんなんが突っ込んであった! これ掛けりゃ寝れるだろ」
遼二が手にしてきた物はテーブルクロスかカーテンか分からないような大きめの布だった。コの字型に置いてあったソファを移動して、せっせと簡易ベッドをこしらえている様子にも唖然とさせられる。いわばお気楽思考の脳天気なのだろうが、そんな遼二のあっけらかんとした様が、何とも心地よく思えて思わず笑みを誘われる。
「遼二よー、お前、いい旦那になるわな」
「――あ?」
「マメな奴だって褒めたんだ。そんじゃ寝るか」
「ああ、ちょっと狭えけど勘弁な。おい紫月、もっとこっち寄れよ。落ちるぞ」
まるで自然に、後ろから抱き包まれるように引き寄せられて、紫月はカッと染まり掛けた頬の熱を隠すようにうつむいた。
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