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第19話 毒虫
そして連休が明けた放課後、帝斗もやはり少々気重ながら、いつものように会長専用のプライベートルームで倫周の訪問を待っていた。
あの日、帰国してから倫周を自宅へと送り届けた後も、帝斗は自らのしてしまったことに少なからず後悔の念を抱いていたのだった。彼と一緒に行った旅の最後の夜に、強引に奪ってしまった身体の関係――そのことで倫周が傷付いていやしないかと危惧していた。
あんな形で強要しない方が良かったのかも知れないということは帝斗自身にも重々分かってはいたのだが、どうしても我慢がきかなかったのだ。帝斗はそれ程までに倫周に執着していた。
「倫は来てくれるだろうか……。会ったらやはりきちんと謝った方がいいだろうね」
独りごちて重いため息をついたその時だ。部屋のベルが鳴ったのに、帝斗は瞳を輝かせた。
倫――!
良かった、来てくれたんだ。
ともかくは顔を見て、先日のことを謝ろう。そして今の自分の、この気持ちを素直に彼に伝えて、話はそれからだ。逸る気持ちを抑えながら扉口まで駆け寄った。
「待っていたよ、倫! この前は……」
自ら迎え入れるように扉を開け、だが来訪者の顔を見た途端に、驚きを通り越して蒼白となった。
「よう、帝斗。久しぶりだな」
そこには望んだ倫周ではなく、帝斗にとっては顔も見たくはないという程の、一人の男が皮肉そうに唇の端を歪めながら佇んでいた。
「バリに行っていたそうだな」
「……帝……仁」
「ゴールデンウィークは俺の誕生祝いを兼ねた園遊会を催すから出席するようにと、招待状まで送っておいたはずだが?」
嫌みたっぷりにそう言う男は、帝斗よりも僅かに上背がある。見下ろすようにしゃくられて
、帝斗は絶句した。まるで蛇に睨まれた蛙のようである。
「お前以外の従兄弟連中は全員出席してくれたんだぜ? お前もあと一年で高校を卒業だ。そろそろこういった社交の催しにはきちんと顔を出すべき年頃じゃねえのか?」
「……あ、それは……悪かったと思ってるよ。でも今年は……生徒会の研修も兼ねていたから……」
言い訳の言葉も弱々しい。白帝学園の絶対的存在とまでされて、全校生徒に崇められている普段の生徒会長としての姿からは考えられない程に怯えさせるこの男は、帝斗の八歳も年の離れた従兄であった。
「まあいい。お前が園遊会を蹴ってくれた礼がてら、俺がわざわざこうして出向いてやったんだ。今日は仕置きも兼ねてたっぷり楽しませてもらうつもりだから覚悟しておけ」
毒々しい笑みと共に下卑た欲を臭わせる視線でじっとりと見つめられて、帝斗は驚愕に身を固くした。
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