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第21話 突然の欲情に――
そこに写っていたのは遼二と自分の手の写真だった。指と指とを深く絡め合わせてガッシリと繋がれた手のアップ。いつだったか、彼の案で半ば強引に撮らされたショットだ。
『何かエロくね? これなら誰と誰の手かなんて分かんねえし、俺とお前だけの秘密って感じがして特別感あるじゃん? なぁ!』
そんなことを言っていたのを思い出す。しばし画像を見つめる内に、無意識に背筋を這い上がった独特の感覚に気付いて、紫月はハッと我に返った。
ドキドキと高鳴り出す心臓音と、次第に熱を帯びてくる頬に手をやれば、数え切れない程に重ねた遼二との濃い時間が思い出される。
次々と脳裏に浮かぶのは、その時の遼二の余裕のない表情と熟れた視線だ。そして彼特有の香りまでもが思い浮かべば、もう抑えきれない程に火の点ってしまった自身の変調に紫月はブルリと肩を震わせた。
「なに、俺……こんな写真だけでおっ勃てるとか、有り得ねえ……」
そうは思えども、もうとめられそうになかった。降って湧いたようにあふれ出した欲情の感覚はどんどん大きくなり、慰めずにはいられない。驚きと自嘲の狭間で、紫月はのたうった。
「……くっ……そ、やべえ……何でこんな……」
堪え切れずに部屋着のスウェットの中に手を突っ込み、下着をもずり下ろす。充分に硬さを増した自身の熱に触れれば、ヌルリとした感覚に、既に先走りしていることを知る。親指でそれを拭うように鈴口を撫で、一番敏感な箇所をほんの少し擦っただけで、
「……っあぅ……ッは……!」
信じ難い嬌声までもが漏れ出した。
ここ最近は遼二との行為もしていない。むろん、自慰もしかりだ。例の指輪の男とすれ違って以来、そちらに気を取られていたせいか、そんな気分にならなかった反動だとでもいうわけか。
携帯の画面には先程見た遼二と自分の手元の画像が表示されている。
その彼の”手”が画面から抜け出して来て、愛撫される妄想が脳内で弧を描く。
ゴツゴツと骨太く男らしいその手が、形の良く長い指先が、頭の中で這い回る。今、自身で握り込んでいる男根も彼の大きな掌で弄られた方が格段に気持ちが良さそうだ。
後ろから抱きすくめられて、胸の突起を指の腹で転がされて、そして首筋から鎖骨をしっとりとした唇で撫でられ吸われ――
「……は、ぁっ、遼二……! 遼……!」
堪らずにベッドに潜り込み、布団をすっぽりと被ると同時に、自らの唾液で濡らした指先で後ろを弄った。普段は滅多にここまではやらないが、今はどうにも欲情が暴走してとめられそうにない。いつも遼二に探られる”悦い”箇所に指が触れれば、とてつもない震えと共に射精感がこみ上げた。
「や……べえ、イッ……く……!」
絶頂に達し、陶酔しきった瞬間、突如携帯電話のバイブが震えて、紫月はギョッとしたように一気に現実へと引き戻された。
汗にまみれた掛け布団を蹴り上げ、テーブルの上で振動している電話に手を伸ばす。画面に表示された名前を見れば、”鐘崎遼二”の文字が飛び込んできた。
ドキン――と、ものすごい効果音までもが聞こえてしまいそうな程、心臓を鷲掴まれた気分だった。
『もしもし、紫月か?』
電話を耳元に持ってきた時は、まだ到達の余韻が覚めやらぬ絶妙な瞬間だった。咄嗟に平静を装ったつもりが、そうそう上手くいくはずもなく、
「……もしも……し、ッあ……」
思い切り艶めかしい声が漏れてしまうのを抑えられなかった。
『――紫月? どした? 今、話してて平気か?』
さっきメールをくれただろう、すぐに返せなくて悪かった――と受話器の向こうで遼二の声が謝罪する。
『ごめんな。ちょうどライブの最中だったんで、携帯の電源切ってた』
声の調子だけを聴けば、遼二は今までと何ら変わらないふうに感じられる。先日のことでわだかまりを持っているようにも思えないことに安堵すると同時に、たった数日聴いていなかったその声がひどく懐かしく思えて、胸を締め付けられるようだった。
そんな遼二を思い浮かべながら激しい自慰行為に溺れ、たった今”イった”ばかりなのにも頬がカッと熱を持つ。荒い息遣いは治まっていないし、少しでも気を弛めれば、嬌声まがいの声も飛び出しそうな状態だった。
『お前、具合でも悪いのか? 何か元気ねえみてえけど……』
「いや……何でもねえ。ちょっと……その、走って来たから……」
『何だ、道場のランニングプログラムか何かか?』
穏やかな笑みまじりの声にそう訊かれただけで、言いようのない感覚がこみ上げた。それは安堵とも切ないともつかないような微妙な気持ちだ。訳もなくすがり付いてしまいたいような、思い切り甘えたいような奇妙な感覚がふつふつと沸き上がる。
「ん、まあそんなとこだ。お前は……?」
『俺の方は今、横浜だ。剛たちとライブ観終わって、茶してるとこ』
「ああ……それって今日だったのか」
『今いる店さ、結構洒落たカフェレストランって感じでよ。ああ、そうそう、お前がいたらぜってー喜びそうなケーキとかいっぱいあるぜ!』
「マジ……?」
『マジ! そうだ、帰りに買ってってやろっか?』
その言葉に紫月はピクリと受話器を持つ手を震わせた。
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