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第27話 驚愕の事実

 この辺りには別荘地も多い。  普段はTシャツにジャージというスタイルが定番の自分たちとは違い、襟付のポロシャツに品の良さそうな短パン、そして靴下に革靴といった出で立ちの彼らの身なりからして、避暑に来ている良家の息子たちのようにも見て取れる。 (家族で旅行にでも来てる奴らなのか――?)  だが、一番小さな子供が中高生の男たちに引きずられるようにしながら困惑しているふうな様子が気になって、そっとマラソンの列を離れた。  しばらく後を付けると、湖の畔が見えてきた。彼らがその側に建つログハウス風の小屋の中へと入っていくのを見届けて、紫月はしばし小屋の周囲で様子を窺うことにしたのだった。  すると、程なくして室内から叫び声のようなものが聞こえてきたのに焦燥感がこみ上げた。中では物が倒れて壊れるような気配が繰り返されているようだった。 (まさか、虐めとか――!?)  中高生が複数人で寄ってたかって子供を虐めていやがるのか――そう思った紫月は、慌てて窓から室内を覗き込んだ。すると、思った通りに三人で取り囲んで殴る蹴るのような暴行をしているのが目に入って、気付いた時には扉を蹴破り加勢に飛び込んでいた。  紫月は体格こそ大して立派ではなかったが、幼い頃から道場で叩き込まれた武術を身につけていたので、相手が中高生だろうと少しの物怖じもしなかった。しかもたった一人の、それも小さな子供相手に集団で卑劣な行為をするなど、許しおけるはずもない。怒りも加わってか、あっという間に男たちを追い払い、虐めに遭っていた子供を救い出したのだった。  傍に寄ってよくよく見れば、その子供はやはり同年代くらいの小学生であることが分かった。彼は大層喜び、そして腕っ節の強い紫月に感動もして、何度も礼を述べてよこした。そして別れ際に、是非とも友達になって欲しいと言われ、約束の印にと指輪を差し出したのだった。 ◇    ◇    ◇  紫月が当時のことを粗方話し終えると、遼二の方は唖然としたまま硬直状態だった。 「……つまり、そん時のガキに貰ったのがその指輪ってこと?」 「ああ。指輪なんて女がするもんだと思ってたし、俺はいらねえって断ったんだけどよ」  だがその子供はどうしても引かなかった。持っていたポシェットのような肩掛け鞄から四つの色違いの指輪を取り出して紫月の目の前に並べると、『好きな色のを選んで』と言って聞かない。 「仕方ねえから一番男っぽい黒いのを貰うことにしたんだ。何でもその指輪には名前があるらしくてよ。俺が選んだ黒いのが玄武、青いのが蒼龍、白が白虎で赤が朱雀だって、そう言うんだ」  なるほど。だから”朱雀”なのかと、遼二は妙に納得してしまった。紫月が最初に『捜しているヤツがいる』と打ち明けた時に、剛や京と共に『誰を?』と訊いたら”朱雀”と答えたことにようやくと合点がいく。  紫月の話は更に続いた。 「その頃さ、四神が出てくるゲームが流行ってたの覚えてねえか? お前ともよく一緒にやったじゃん?」  そういえば思い出した。小学校のクラスメイト仲間で取り合いになる程に流行したゲームがあったっけ――放課後になると紫月と共に夢中になってプレイしたのが懐かしい。 「あん時、俺はいつも玄武の盾を使ってて、お前の専用武器は蒼龍の矛だったじゃん? それもあって”玄武”って名前の付いた黒い指輪を貰うことにしたんだよ。ホントはお前の分も……つか、青い指輪も一緒に欲しかったんだけどさ。さすがに二つくれとは言えなかった」  照れたように苦笑する紫月に、思わず頬が熱を持つ。そんな子供の時分から、何かにつけて気に掛けてくれていたということを知って、感激にも近い思いがこみ上げる。  とにかくも、紫月と指輪の男との馴れ初めを聞いたことで、遼二はドッと肩の荷が下りる心地でいた。何よりも一番大きかったのは、危惧していたような”一目惚れ”とは何ら関係のなかったことに安堵する。こんなことを思う自体、すっかり紫月に囚われてしまっている証なのだろうが、今の遼二にはこれが友情なのか恋愛感情なのかなどということは、どうでも良かったに違いない。 「しっかし……お前もガキん頃から血の気が多かったっつーかさ。中高生相手にタンカ切るとか、微笑ましいっつか、笑えるっつか」  ホッとした気持ちをそのままに、機嫌の良く、冷やかし文句も心地いい。だが、そんな安堵感が一気に引っくり返されることになろうとは思ってもみなかった。想像もし得ない突飛なことを紫月から打ち明けられたのは、その直後のことだった。 「まあ、そこまでは普通……つか、あってもおかしくねえ話だろ? けどよ……」  指輪を弄りながら紫月の眉根がしかめられたことに遼二は首を傾げた。 「ただの虐めじゃなかったんだ……」 「――? ただの虐めじゃねえって……どういうこと?」 「あいつらがやってたこと――ただの殴る蹴るだけじゃなかった。三人でガキの服をひん剥いて……いかがわしいことしてやがったんだ」 ――――!?  遼二は絶句させられた。

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