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第30話 もう気付いている想い

 そして、先程羽織ったばかりのスウェットの上着を開いて肩先をあらわにすれば、より一層の欲情がすぐにも顔を出す。薄い素材のタンクトップがピッタリと肌に密着して、胸の突起の形が透けている箇所をなぞり、つまむように甘噛みを繰り返すと、 「い……ッ、遼……!」  名を呼ぶ声もすぐに形を失くして、甘い嬌声へと取って替わった。  組み敷いた床の上で肩をすくめて首をよじり、頬は熱を持ち、瞳の中にはすぐにも火の点りそうな情欲がはっきりと見て取れる。遼二はそれらをもっともっと引き出し高めるように、胸飾りをしつこくついばみ続けた。すると紫月の方も堪らないというように背中に腕を回し、服の中へと両手を滑り込ませてきた。いちいちボタンを外すなど面倒だ、いっそ捲し上げて一気に素肌が欲しいと言わんばかりに余裕がない。 「脱げよ……てめえも……。服、邪魔だし」 「やっぱ服の上からより直がいいってか?」  もうしばし焦らしたくて、コツン――と指先で乳輪を弾きつつ、わざと色気を含ませた低い声を耳元に落としてやる。そのまま首筋、肩先、鎖骨へと無数の愛撫を散らし、タンクトップを捲し上げて、望む通り”直”の胸飾りを舐め上げた。  舌先を尖らせ、突起をチロチロとつつきながら、最後に舌全体で乳輪を絡め取るように舐め回す。と同時に、手ではスウェットの上から熱を増していく雄をユルユルと揉みしだいた。 「こっちも”直”に触って欲しいか? けど俺――もうちょいお前のエロ顔見ててえってのもあるかな」  焦らすほどスウェットの中には熱がこもり、ジクジクと疼くのがダイレクトに手指に伝わってくるほどだ。 「すっげ……堪んね……」 「バッ……! 遼……ッ、あ……は……っ、ヘン……!」  既に言葉になっていないが、これ以上されるとヘンになってしまうという意思表示なのだろうか、それとも『変態』と言いたいのか。紫月が懸命かつ無意識にしがみ付き、荒い吐息を抑えながらも潤んだ瞳で見上げてくる。 「遼……お……まえ、いっつもエロいけど……今日はいっちゃんエロい……こんなの……」 「けど、感じたろ? 正直に言ってみ?」 「……ッ、んな、恥ずいこと……言わせんな……」  紫月は火照ってしまった頬を隠すかのようにキッと遼二を睨み上げると、お返しとばかりに掴み上げた手を自らの口元へと持っていき、その指先をパクリと咥えて舌を這わせた。人差し指の付け根から爪の先までを尖らせた舌でツツーと舐め上げる。まるで指を遼二の雄に見立てんとばかりに、挑発的な視線を向けながら口の中で指し貫きしてみせる仕草がたまらなく愛しく思えた。 「指でいいのか? それとも俺のを舐めてえか?」 「……だっ……れが、ンなこと言っ……」 「けど今、俺の指舐めながら想像したろ?」 「お前、マジ……エロい!」 「そうか?」  遼二はニヒルに笑うと、紫月の下肢へと顔を埋め、細身の腰には大きめのダボついたスウェットをずり下げて、熱で硬くなった彼の雄へと唇を這わせた。そしてたった今、紫月がしたように付け根から先端までの裏筋を舐め上げながら、鈴口の周りを何度も舌先でつついて愛撫する。もうすっかり先走りで濡れそぼった蜜を味わうように、器用にそれらを絡め取る。 「……ッ! 遼……っ、い……よせバカ……!」  もう余裕のかけらもない表情は既に陶酔しきっていて、遼二は組み敷いていた身体を両の腕で抱き起こすと、そのまま姫抱きするように抱え上げてベッドのシーツの海へと沈めた。そして自らもジャケットごとシャツまで一気に脱ぎ捨て半裸になる。その仕草を見上げていた紫月は更に頬を染め、期待に胸躍る感を隠せないままで瞳を震わせた。 「……やっぱ……本物はいいな」  思わずポロリとそう口走ってしまったのを遼二が聞き逃すはずもなく、 「――本物って何?」  雄同士を重ね合わせるように腰を使って密着させながらそう問いただす。 「……あ、いや……別に……」  『しまった!』と思ってももう遅い。 「何だよ、本物って。教えろって」  迫られて、紫月は観念したというように泳がせていた視線を遼二へと向けた。 「んだから……俺、さっき……お前が来る前にさ……一人で抜いたっつか……」  『――抜いた』というひと言に反応したのだろう、若干ひそめられた瞳が怪訝そうに見下ろす。 「や、だから……前にてめえが撮った手の写真あるだろ? 俺とお前の手だけ繋いで撮ったやつ」 「ああ……俺が待ち受けにしてるやつか?」 「は? てめ、待ち受けなんかにしてんの!?」 「……ッ、悪りィかよ」  カッと染まり掛けた頬の熱を隠さんと、遼二はわざとぶっきらぼうに訊いた。 「で、その写真が何?」 「だから……それ見てたら急に……その、何つーか……ヘンな気分になって……さ」 「もしか、俺の”手”でされたくなったとか?」  つい今し方にひそめられた眉が弧を描き、今度はめちゃくちゃ愛しげに取って代わる。自分を想像して『ヤった』のなら満足とでもいうわけなのか、分かりやす過ぎる遼二の反応に、紫月はツンと唇を結んでスネてみせた。 「しゃーねえだろ! てめえとドンパチやらかしてから会えてなかったんだし、それに……さっきはメール送ったって一向に返事こねえしで……何かもうワケ分かんなくな……って」 「不安になった?」 「不安ッ……つーより、まだ怒ってんのかって。だったらどうすっかなって……そう思っただけだ」  言いづらそうにブツブツと口ごもる様を見下ろしながら、遼二はチクリと胸の痛むのを感じていた。  元はといえば、自身の嫉妬心から彼を詰り、取っ組み合いまでした挙げ句、数日連絡もせずに、紫月にこんな思いをさせていたのは自分だ。 「紫月、ごめんな。俺が大人げねえだけ……つか、ガキなんだ。お前はナンも悪くねえのによ」  額と額をコツリと合わせて、次は鼻と鼻、そして唇で唇を啄むように包み込み、何度も何度もキスを落とし、頬張り、奪い、求め――遼二はここ数日の間、自らの中で抱えていた様々な想いの全てを呑み込むように組み敷いたスレンダーな身体を力いっぱい抱き締めた。

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