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第43話 対面
「はぁ!? まさかこいつを拾って帰るってか? つか、ヤブなんかに診せてダイジョブなわけ?」
「ああ、平気だ。見てくれはヘボいオッサンだが、腕は確かだ。俺もガキん頃から何度も世話になってる」
「そういうの、ヤブって言わねんじゃね?」
呆れる京を傍らに、とにかくロープを調達しに行こうと、剛がバイクを取りに走り出した。こんな所でいつまでも長居していては、何かと不味いのは確かだ。パトロール中の警察などに見つかっても厄介だし、もしかしたらこの男に怪我を負わせた誰かが追い掛けて来ないとも限らない。遼二と京に現場を預けることにして、剛がホームセンターへと急いだのだった。
◇ ◇ ◇
三人が怪我を負った男を連れて川崎の遼二の自宅へと戻ったのは、午後の十一時になろうという頃だった。もう深夜の時間帯だが、遼二の家の隣で開業医をしているという”おやっさん”が快く診察を引き受けてくれたので、一同はホッと胸を撫で下ろしていた。
男の具合は、打ち身は酷いが入院させるほどの重傷ではないということなので、特に総合病院などには行かずに、今夜は遼二の部屋で休ませることとなった。気を失ったまま意識は未だ戻らず、診察後は医師のおやっさんも付き添って、遼二の家はてんやわんやだ。いつもなら寝ているはずの両親も起きてきて、皆で男を遼二の自室がある二階へと担ぎ上げたのだった。
程なくして紫月もやって来るというので、剛と京は帰ることとなった。男が目覚めた時に、あまり大勢で顔を揃えているのも、かえって不安を与えるようで良くないだろうと思ってのことだ。遼二は二人に心からの礼を述べると、玄関先まで出て彼らを見送った。すると、剛らとは入れ違いの形で反対方向から紫月が走って来るのが見えた。紫月の家はワンブロック隔てたすぐ真裏なのだが、息せき切らして走って来たという様子だ。
「悪い、遼! 風呂に入っててよ。メール、今さっき見た!」
時間も遅かったので、指輪の男らしきを見つけたことを取り敢えずメールでだけ報告したのだ。紫月が気付かなければ、また明日でもいいと思ってのことだったのだが、メールを見てすっ飛んで来たらしい。
「剛と京は?」
「ああ、今帰ったとこだ」
「……そう」
遼二らが本当に指輪の男捜しをしてくれていたことに、紫月は滅法驚いたといった様子で、礼の言葉も上手くは出てこないようだった。しかも、本当に見つけ出してくるなど、まさに信じ難いといった顔付きで遼二を凝視する。
「えっと……遼、何つったらいいか……その、ありがとな」
それだけ言うのが精一杯といった調子である。
「いいよ。とにかく見つかったのは良かったが、怪我もしてるし、とりあえず俺ン部屋へ行くぞ」
「あ、うん」
二人は医師のおやっさんが待つ遼二の自室へと向かった。
遼二の部屋は二階に一室だけある八畳の洋室だ。廊下を出ると、対面には三畳ほどの物置的な部屋があるだけで、左程広くはない。両親は階下で暮らしているし、兄弟もいない一人っ子なので、割合悠々自適の生活である。たまに紫月や剛らが泊りにやって来るも、隣の部屋に両親が寝ているとかいうわけではないので、ちょっとした一人暮らし的な自由感覚だった。
「夜分にすいません。親父さん、お袋さん、お邪魔します」
紫月は遼二の両親に向かってペコリと頭を下げると、そのまま二階へと急いだ。
「おう、紫月坊も来たか」
「ばんわっす!」
このおやっさんには遼二のみならず、紫月も小さい頃から世話になっているから、殆ど親戚付き合いのような感覚だ。
「で、どうっすか? まだ目を覚まさないっすか?」
自分のベッドに寝かせている男の様子を窺いながら、遼二はそっと尋ねた。その後ろから、紫月も彼の様子を覗き込む。
「どうだ、見覚えあるか?」
小声で紫月にそう問うも、寝顔だけでは判断が付かないのか、紫月は小難しそうに首を傾げるだけだ。
「ん、分かんねえ……。正直、ガキん頃のことだし、会ったのはキャンプん時の一回きりだし」
まあ、そうだろうなと思いつつ、遼二は医師のおやっさんに詳しい所見を聞くことにした。
「こいつ、何でこんな怪我を負ったんスかね?」
「さぁな、詳しいことは何とも言えねえがな。一番酷いのは蹴られたことによる打ち身ってところだな」
「蹴り……ですか」
思わず顔をしかめた二人に、
「しかし、お前さん方も相変わらず厄介なことに係わってやがるなぁ」
医師は溜め息がちにそう言いながら、苦笑した。
「遼二坊の話だと横浜で偶然見掛けて連れ帰ったってことだが、確かにこの子はお前らと違って自分から喧嘩に突っ込んでいくタイプには見えねえわな」
「おやっさん、そりゃねえっしょ! 俺らだって、ンなしょっちゅう喧嘩なんかしないっスよ」
遼二の言葉に医師は軽く笑うと、少し真顔になり、こう続けた。
「お前らみてえなケツの青いガキんちょに言うのもどうかと思うが、この子は単に喧嘩やらでこんな怪我を負ったってだけじゃなさそうだぜ?」
どういう意味だ――と、遼二と紫月は互いを見合った。
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