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第4話
「そんなことはないよ。絶対」
「それは今そう思ってるだけだ」
突き放すように、そう告げる。ここで甘やかしては台無しだ。彼が勘違いに気づくまで、年上の自分が流されないよう、しっかりしなければならない。
「じゃぁ、信じて。俺、成人したらセツを呼ぶから」
呼ぶと言う言葉に、思わず自分の獣の耳に手で触れる。何の声も聞こえなかった自分の耳。
「それまで俺は独り身か」
真剣な相手を、だからこそ茶化すように笑う。あり得ないだろうという口調。ロウヤが成人するまで、後五年。儀式自体は年一回とはいえ、封印は解除されているのだ。それまで独りだなんてさすがに寂し過ぎるだろう。
「待たなくても良いよ」
苦笑いするセツに、ゆっくりと首を振るロウヤ。
「だって俺、里で一番良い男になるし。セツの方から惚れてくるような一番の雄になるからな」
見てろよと、余りに自信満々の物言いに思わず噴き出す。確かに将来楽しみな美貌だと、里でも評判の彼だ。まだ幼いというのに、秋波を送る雌がいると言うのは聞いている。だがロウヤは色事より、友達と戯れているのが好きなようで、今のところ何もないようなのだが。そんなことを考えていたせいだろうか。
「俺は浮気するようなヤツは嫌いだぞ」
なぜ言ってしまったのか。ポロリと口からとんでもない台詞が零れる。まずいと慌てて口を押さえるセツに、ロウヤの耳がピンと立った。
「そんなことはしないよ!」
きっぱりと、そう言われて息を飲む。ぐっと寄せられる真摯な表情に、セツは気圧されるように幹へと凭れかかる。
「俺はセツだけしか見ないよ。セツしかいらないから。だから、セツが見てもいいのは俺だけだからね」
待たなくてもいいと言った癖に、そんなことを言うロウヤに呆れてしまう。
「そんなの知らん」
だからセツは首を振り、見つめてくる熱を帯びた視線に気づかない振りをした。その熱が移って自分自身の頬が色づいたように染まっているのにも。
その朱に染まった肢体が、まだ幼い人狼すら、虜にならずに居られないほどに美しく、魅惑的に相手を誘っているのか。総ての感情に蓋をした彼は気づくことはなかった。
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