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第9話 魔法2
「ねー、北見先生。あの……聞いていい?」
その日の夜、診察をしているとき、ロイがなにやらおずおずとした様子で話しかけてきた。
いつも屈託なく、はきはきと話しかけてくるのに、なんだか今は視線をきょときょとと彷徨わせ、落ち着かない様子である。
「ん? 何? 改まって」
「……あの、さ。あの……やっぱりお医者さんって、看護師の女の人とか、おんなじ医者の女の人とかと、そのお付き合い、することが、……多いの?」
「は?」
思わずロイを凝視すると、思いつめたように大きな瞳を揺らしていて透き通るような頬が少し赤い。
そんな様子を見せられて察せられないほど俺は鈍感ではない。
ロイが聞きたいことの真意はすぐに分かったが、もう少し焦らしたい。
「そうだね。どうしても出会いの場所が限られているからね。やっぱりそういうパターンが多いかな」
ロイの気持ちを知りながら、意地悪だなと自分でも自覚しながらそんなふうに答えると、ロイは分かりやすくみるみる萎んでいく。
華奢な手でシーツをギュッと握りしめ、唇を噛みしめてからロイは小さな吐息のような声で言葉を重ねた。
「……北見先生も……?」
「ん?」
「……北見先生もそういう女の人とお付き合いしてるの?」
今にも涙が零れそうな潤んだ瞳。
悲しそうに震える唇が紡ぐ問いかけ。
本当に可愛い。
もう少しいじめちゃいたい気もするけれど、やめておくことにして。
俺はロイと同じ目線になると、柔らかな髪を撫でながら言った。
「俺はね、今は目の前にいる患者さんに魔法をかけてあげることで頭がいっぱいいっぱいで、他のことにまで気が回らないかな」
「え?」
「君が早く快くなるように今、魔法の腕を磨いているんだ。俺は」
「……北見先生……」
俺の言葉に、ロイは涙目のまま見る見るうちに真っ赤になり、シーツの中へと隠れてしまう。
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