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第11話 誕生日前日
「明日は誕生日だね、ロイ」
病室に入るなり俺がそう言うと、ロイは大きな目をパチパチさせて、驚いた。
「えっ……北見先生、僕の誕生日、知ってくれていたの?」
「勿論」
「うれしい」
大きな瞳をキラキラさせて、無邪気に喜ぶ姿は本当に可愛くてたまらない。
「明日で君も二十歳だね」
「うん。お酒も飲めるし、選挙権だってあるんだよねー」
得意げに笑うロイの姿はまだまだ子供だ。
俺は彼の顔を覗き込むようにしながら問いかけた。
「なにか欲しいもの、ある?」
「えっ?」
「誕生日プレゼントだよ」
「えっ、えっ? でも、……いいの?」
本当はよくない。
医師が一人の患者に特別に入れ込むのは決して褒められたことではないだろう。
それでもとめられない。
君の笑顔が見たくて。
「いいよ。オレがプレゼントできるものなら、なんでも言って」
特別な人の二十歳の誕生日を祝ってあげられる幸せを噛みしめながら俺が言葉を重ねると、ロイは少し逡巡したあと口を開いた。
「それじゃあね……」
「うん、何?」
「あのね、僕、北見先生のおうちへ泊まりに行きたい」
「……えっ?」
てっきりなにか物を欲しがられると思っていたのに、予想もしていなかったリクエストに、面食らい困惑する。
さすがにそのお願いは聞いてあげられそうにない。
「ロイ、それはできないよ」
「どうして?」
「どうしてって……君は入院中の身だし、それに」
しかし俺の断りの言葉は途中で遮られる。
「北見先生」
怒ったような声音で俺の名を呼び、内面の強さを垣間見せるようなまなざしでこちらをきつく睨みつけて来るロイ。
「な、なに?」
思わずたじたじとなってしまう。
「男に二言はないって言うでしょ!?」
「……それ、こういう時に使う言葉じゃない気がするんだけどね。ロイ。何か他の物じゃだめか? ゲーム機とか服とか」
やさしく諭すもロイの目は完全に据わってしまっていて、そんなものは欲しくないと文句を言って来る。
「なんでもプレゼントしてくれるって言ったじゃないか、先生のうそつき」
「うそつきって……」
正しくは『オレにできることなら』という条件付きだったというのに、ロイはそんなことは関係ないとばかりにじとーんとした視線を寄こしてくる。
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